調教初日*



「…ンッ!…はぁッ、アッ、あぁ、…んッ、アッ、はぁ…ッ、んッ」


……地震?
神童は目を瞑ったまま、思わず眉を寄せた。
さっきから途切れる事無く不規則な声がすぐ傍から聞こえてくる。
それに声だけじゃなく地面が軋むように絶えず振動している。
それは昏睡していた神童の意識を呼び覚ますくらいに大きく、そして煩わしい。
重く感じる瞼を神童がゆっくりと開けると、まっさきに目に入ってきたのはシーツの海。
やけに広いシーツとふかふかの布団は神童の身体を沈みこませて視界を狭めていた。

ここは……?

神童にある最後の記憶はパーフェクトカスケイドとの試合の場面。
この見慣れないベッドとはどうにも繋がらずに、神童は辺りを見渡そうとした。
だが神童の目に飛び込んできたのは、部屋の風景なんかじゃなかった。


「ああンンッ!ご主人様ぁん、そこ、だめぇぇ……ッ!」

「ッ!!!」

見知った相手のベッドシーンだった。


間接照明しかない薄暗い室内でもその女性の肌は白く浮かび上がっていた。
神童が横になっていたベッドの上で、くすんだ水色の髪の女性が顔を伏せた状態で神童の顔の方に向かって手を付いて四つん這いになっている。
その奥には背後から密着した見知らぬ男性の裸体の腹部が見える。
女性の白い腕に剥き出しの肩とその裸体の男性の存在だけで何が行われているか察した神童は、瞬間的に俯いた。
見てはいけないという一般的な配慮だけじゃなく、見たくないという神童らしい潔癖さがそうさせた。
咄嗟に見えてしまった女性の華奢な身体つきと、相手男性の恰幅のいい体型の落差にイヤラシさよりも嫌悪感を覚えた。
でも彼らはそういう繊細さとは無縁らしい。
神童の起き上がる際の微かなベッドの軋みを敏感に感じ取っていたのか、神童が顔を俯かせたのとほぼ同じくして情事の甘さを含んだ声で話しかけてきた。


「ン…ッ、ご主人さまぁ…、どうやら目が覚めたようですわぁ…んッ。
ンふッ、御覧のとおり、今、イイところですのぉ…ッ。
やあぁぁん、ご主人様ぁ、そんな激しくしちゃエッチな音まで聞こえちゃいますぅ…ッ」

言葉のとおり神童の耳に、パァンパァンという肉を打つ音と、ぐちゅっぐちゅっという粘り気のある水音が絡みつく音が入ってくる。
神童は嫌悪感に顔を伏せるだけじゃ足りずに目を固く瞑り、耳を手で塞いだ。

顔を確認せずとも自分に話しかけてきた女性はベータだった。
ハシタナイ声で相手の男性に甘えているのは確かにベータだ。
自分と同年代のベータが、先程咄嗟に見えた大人の、それも相当年配の男性に組み敷かれているかと思うと吐き気さえこみ上げてくる。
しかも神童がここまで嫌悪を感じてしまう行為を、二人は神童がすぐ傍にいるのに平気で行っている。
見られても羞恥を感じるどころか、その痴態を寧ろ見せ付けてきている気がする。


「フフッ、見られて興奮しているようだね。
私の脚までびしょ濡れにして、ベータは悪い子だな」

「あぁぁん、ご主人様の意地悪ぅぅぅ!」

いくら耳を手で塞いでいても、この近さではそれも効果が薄い。
二人の睦言も、肉襞を穿つ音さえも、聞きたくもないのに神童の手の隙間を縫って神童の耳と届いてしまう。
しかも行為の激しさ故か、二人は神童の方へとどんどん接近してきている。
性行為の熱気が二人の欲を孕んでどんどん神童に近づいてくる。

神童は汚らわしい存在を拒絶するように膝を抱えた。
膝を立て耳を塞いで身体を縮ませれば、少しは自分に翳れが移るのを防げるような気がした。
しかしそんな神童の懸命な拒絶を、ベータはあざ笑うように口の端を上げた。


「あらぁん、ちゃんと見ておいた方がよろしいですわよぉ。
だって貴方も今日から……」


「え…ッ!?」

ベータの衝撃的な発言は、自らが塞いでいた手によってはっきりとは聞き取れなかった。
だが神童にはベータはこう言ったように聞こえた。


――だって貴方も今日からは同じように御奉仕するようなんですもの……。


その内容は到底神童には受け入れられるものではない。
聞き間違いだ、と神童は思うものの、今の異常な状況を考慮するとどうしても一抹の不安が拭えない。
聞き違いであって欲しい。
その一心で、神童は塞いでいた手を退かし、恐る恐る立てていた膝を下ろした。
先程の言葉の続きを聞き逃さないようにだった。


「あぁぁんッ!イイッ、イイですわあぁぁッ!
ベータぁ、もお、だめですぅーー……ッ!」

それを見計らったかのようにベータが一際高い嬌声をあげる。
神童に白い喉をさらして、ベータが感極まったように背を撓らせた。
小ぶりな胸がふるりと神童の面前で揺れる。
そのあまりの近さに、神童の顔が蒼白に染まる。
そこまで近づいていると、耳を塞いで目を瞑っていた神童は気づいていなかったのだ。


「ああぁぁんッ、イっちゃいますぅぅぅぅーーーッ!!」


そう獣のように啼き声をあげると、ベータは全身をひくんっと痙攣させた。
手を付いていたシーツもぎゅうっと握りしめられ、神童に掛かっていた分まで寄ってしまっている。
初めて見る女性の絶頂に、神童の目が見開く。


――今、確かに目が合った。


ベータは確かに絶頂を迎える前に、蒼白になった自分を見下ろして目を細めていた。
底知れぬ悪寒に神童は瞬きもせずに、ひくひくと全身を強張らせているベータを見つめた。
自分の聞き間違いではないと確信した瞬間だった。


 




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