SIDE浜野7



「本当…です、か…?」

俺の胸の中で背を丸めた速水が嗚咽交じりに呟く。

「え?」

思わず俺が聞き返すと、速水は涙に濡れた瞳を俺に向けた。
速水の泣き顔……。
速水が泣いてるとこなんて何回も見てきたはずなのに、こんなに近くで見たのは初めてで。
近すぎてズクッと胸が疼く。

「本当、に…、ずっと……」

すぐにでもキス出来そうな距離で、速水は俺を見つめてる。
眼鏡の奥の瞳は必死そうな光を湛えてる。
その必死さが、キス出来そうな距離をあっちゅー間にとんでもなく遠いものに変えてしまう。
速水はそう言うと一旦口を噤み、意を決したように再度口を開いた。


「俺の傍に、居て…くれますか……?」

囁くというより内緒話でもするのかっちゅーぐらい小さな小さな速水の声。
グッとまた胸が詰まった。

……ごめんなぁ速水、こんなしなくてもいい心配させて。

俺は泣きそうになるのをグッと堪えて、無理矢理でも笑顔を作った。


「とーぜん!」

速水の前で俺は絶対泣くなんてしちゃ駄目だ。
少しでも不安がらせないように笑顔で頷けば、速水は堪えていたのが溢れたみたいにまたぶわっと涙をそのつぶらな瞳に浮かべた。

「浜、の…く…っ!」

感極まった声で俺の名前を呼ぶと、速水はぎゅうっとまた俺に抱きついてきた。
…そりゃさ、好きな子が抱きついてきたら反射的にドキッとしちゃうよ。
でももう性的なドキドキよりも速水への愛しさっちゅーのかな?
なんていうかコイツのこと守ってやんなきゃなーって気持ちの方が勝ってきてて。
さっきと違って今度は抱きついてきた速水の事を抱きとめる事が出来た。

「すみませ…っ、すみません…っ!」

泣きながら謝ってくる速水を宥めるように背中に手を廻すと、速水の身体はびっくりするぐらい細くて。
こんな細い身体で俺の為に覚悟を決めてくれたんだなぁって思ったら、俺にしがみ付いて泣く速水がすっげー愛おしくなって。
俺の中の邪な気持ちがスーッと消えて、速水をちゃんと抱きしめる事が出来た。


「なあ速水ぃ〜?」

俺は速水の後頭部を撫でながら、サッカー棟の天井を見上げた。
・・・この気持ちを忘れなければ速水の傍に居てもずっと優しい気持ちだけでいられるんかな?

「俺のこと好き?」

……ッ、…速水が止まった。
俺がそう訊くと、速水は妙に上擦った嗚咽を漏らしたあと身体を固くした。
…あーぁ。
友達としてでもいいから「好き」って速水の口から聞きたかっただけなんだけど、訊くんじゃなかったなー。
何気ない流れで言ったつもりが、盛大に地雷を踏みまくった俺は自分の発言でまたも心に大ダメージを負っていた。
そうだよな、下手に「好き」なんて言って俺を誤解させたくないもんな。
速水が躊躇するのも当然だよ…、
そう確かに思っているはずなのに、もう俺の手は速水の頭を撫で続けることは出来なくなっていた。


「……ぃ」

どれぐらい二人して固まってたんかな?
少しして速水が小さく呟く。
それはさっきの内緒話みたいって思った質問の時よりももーっと小さな声だった。
多分、俺が全神経を速水に集中してなかったら聞こえなかったぐらい。
それでも聞こえたのは語尾の「い」だけだった。

…好きか?って訊いて語尾に「い」が付く返答なんて俺の頭じゃ一個の単語しか思い浮かばない。

ッあぁー、馬鹿だ俺!
自分で訊いといてトドメくらってやんの。ばっかだねーーー……!
ほんっと……。

…底なしの馬鹿だ、俺。


「……好き、です」

フォローのように続けられた速水の言葉は、俺が本来聞きたかった言葉だった。
カチンコチンに固くて、その前の小さな小さな言葉よりよっぽど感情の篭ってない言い方でしかなかったけれど。

それでも。
それでも確かに速水はそう言ってくれた。

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