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「ふむふむ、ほうほう。そうか、そうか」

にょた浜野告白パニックが収束した後、速水はそれまで忘れていた不安を一気呵成に吐き出した。
それはもう今度は浜野が引く程に、速水は宇宙人に女体化手術を施された可能性を熱く語った。
一応はうんうんと相槌だけは適当に打っていた浜野は、話が途切れた一瞬の隙を突いて口を開く。


「で!ちゅーかさ、速水も女の身体でオナニーしてみた?
おっぱいってさ、揉んでも感触が気持ちぃだけでマジで気持ちぃのは乳首だけだったんだけど、それって速水もだった?
エロ本って嘘ばっかりなー!」

速水の言葉と全く関係ない、能天気なその言葉。
速水が鬼と化した瞬間だった……。


「浜野くー…ん、俺の話、聞ぃー…てましたぁー…?」

速水がユラリと立ち上がる。
その姿はまさに怨霊の如し!


「聞いてた、聞いてたぁー!
えっとー…、確かこれから宇宙人とエッチな大実験が始まるんだよね?
ひゃー、初体験が宇宙人ってTV出れちゃうんじゃねー!?
どうする、どうするぅ〜?『宇宙人の生殖器はどのような形状でしたか!?』なーんてレポーターに真面目に聞かれちゃったらぁ〜!?
『普段扱き慣れたモノと大差ありませんでした。ただ剥けたら緑でした。ピスタチオか!って思わずツッコミました』とか答えちゃう〜!?」

だが、興奮している浜野はそんな生霊ver.の速水に気づかず、自分の妄想に身悶えた。
どうやら二人はネガとポジと方向性は真逆ながら、残念さでは負けず劣らずらしい。
だが速水は自分の妄想のイタさ加減は棚に上げ、浜野の能天気さにブチ切れた。


「こぉの(巻き舌)口はエロい事しか言えないんですくわぁぁ(巻き舌)!!」

「痛ひゃい、痛ひゃいぃぃ!」

速水、必殺のアイアンクロー!!
速水の細い指が浜野の顎を締め上げる!!
浜野は速水に顎を片手でムギュウゥゥと掴まれ、宙吊りになって文字通り泣いた。
脚をジタバタしながら、泣かされた。
そしてドサッと床に落とされると、ペッとばかりにこう吐き捨てられた。


「このミルクタンク☆ビッチ初号機がっ」

THE・意味不明!!
浜野が速水の捨て台詞の意味に想いを馳せている間に、速水はクルリとドアの方へと脚を向けた。


「えっ、もう帰っちゃうの!?」

浜野が慌てて引き止めても、速水は帰り支度を止めない。


「取り合えず倉間君のとこにでも移動します。
浜野君も女体化してる以上、ここも安全じゃないかもしれないんで」

「じゃあ俺も行くー!!」

ブチ切れた事ですっかりいつもの草食っぷりを取り戻した速水の言葉に、浜野が勢いよく立ち上がる。
そして部屋を出ようとしていた速水に続いて、部屋を出ようとした。

・・・水着のままで。


「自慢かッ!」

そして速水の大分私情にまみれたツッコミが炸裂する。
というかツッコむところが間違っている気がする。
…がっ、そもそもツッコミなんて気にする浜野ではなかった。


「えー、このままじゃ駄目ぇ〜?
でっかいおっぱい見れて皆も喜ぶ、俺も楽チン。人類皆ハッピー!でおっけーじゃん」

「駄目です!!絶対、公然わいせつ物陳列罪で捕まりますよ〜!!
カツ丼一つで一晩中オヤッサンって渾名の刑事に説教されるのが関の山ですよ〜!!」

「でも俺のおっぱい、わいせつって感じしないよ?寧ろ牛っていうか…」

「はい、そこー!
自慢なのはもう充分分かりましたから、ささっと出掛ける準備してください!」

「ちぇ〜」

だんだんキレ気味になってきた速水を野生の勘で察知した浜野は、渋々ながら押入れの中をゴソゴソと漁りだした。
そしてすぐにお目当てのものを見つけると、頭からそれを装着した。

・・・そう、浮き輪を。


「って、なんで浮き輪なんですか!?
俺は逮捕されるから服を着ろって言ったんですよ!?
そもそも浜野クンはどこに行くつもりなんですか!?海?それとも拘置所!?」

「え〜?倉間んちでしょ。
もー、速水が倉間んちに行くって言ったんじゃん。やだなー。
…って、痛ひゃい、痛ひゃいぃぃ!」

そしてまたもや炸裂する、速水のアイアンクロー!!


「俺は『出掛ける準備をして下さい』って言いましたよね?
『その無駄にデカイおっぱいを街行く人にお披露目して下さい』とは言ってませんよね?」

そう言うと速水は高く掲げた手を離し、床にドサッと音を立てて落ちた浜野に吐き捨てた。


「さっさとその馬鹿デカイ乳をしまえ!
このミラクルビッチ☆搾乳機がっ」

普段大人しい人ほど怒ると怖いって本当なんだな、と浜野は床に転がりながら実感していた。
だが自分の何がそんなにも速水を怒らせたのか、浜野にはさっぱり思い当たる点はない。
禍々しいオーラを纏っている速水を見上げ、浜野はその豊満な胸に手を置き悩むのであった。

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