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「ちゅーかさ、ちゅーかさ!
もー、速水とシたい事いーっぱいあんだって!
あのさ、女の身体ってチョーすげーの!!
おっぱいぼよよ〜んだし、たぷんたぷんすんだって!!
ね、ね、速水も触ってみ?」

何故か負けた感じが拭い去れずに呆然としている速水に浜野は少しも気づかない。
興奮して抱きついたと思えば、すぐさま速水の手を取って自分のロケット乳へと重ねた。


どうして浜野クンの胸は鎖骨からすぐに斜面が始まっているんでしょう……?
速水は遠い目で「…鋭斜角60度」と小さく呟いた。
それから自分の15度位の角度しかなかった胸に思いを馳せ、スキーのジャンプ台とぞうさんの滑り台をどうしてだか思い出していた。
ふふ、懐かしいですね、ぞうさんの滑り台。
近所の公園にあって、小さい頃はよく遊んだものですよ。
そう、小さい頃は…。小さい頃…。小さい…。小さ…。


「どうせ俺のは小さいですよッ!!」

急に怒り出した速水に、浜野はビクーッと驚いた。
そして自分の何が速水を怒らせたのか少し悩むと、ハッと気づいたように速水の手を握った。


「そっか、ゴメーン速水ー。
外じゃ恥ずかしいよな。早くあがってあがってー」

そう言うと浜野は率先して速水を自分の部屋に招き入れた。
そして部屋に入るとそそくさと速水をベッドに座らせ、その上に浜野が座った。

――な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえもっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
と、速水は思わずジョジョった。
それもそのはず、浜野はベッドに腰掛けた速水と向かい合うようにして速水の腰に跨って座ったのだ。
しかも迅速かつナチュラルに。
そして何を思ったのかニコッと笑うと速水の肩に手を置き顔を近づけてきた。
ちゅーか、「チュー」の構えである。


「はやおッ!?」

速水は咄嗟に某有名アニメ映画監督の名前を叫ぶと、仰け反るようにしてベッドに倒れこんだ。
なんとか無事に浜野のチューを回避できた速水は、あまりの出来事に肩で息をしながら浜野に怒鳴った。


「急に何するんですか!?」

「ちゅーか、チュー」

だが、浜野はさも当然と言わんばかりに再度チューの構えを試みた!
チュッと唇を突き出した顔を避けても、ボヨヨンとした胸が当たる、まさに浜野無双の構えだ。
浜野、怒涛のチュー攻撃!
速水、得意の俊敏さで寸でのところで浜野の攻撃をかわす!
プロもびっくりの紙一重の攻防がこんななんの変哲もない民家で繰り広げられているとは。
なんとか間一髪で危機を凌いだ速水は、慌てて片手で口をガードして、もう片方の手を浜野に突き出した。


「ちょっ!ちょっ!ちょっと待って下さい!
なんで俺と浜野クンでチューなんですか!?俺たち別にそういう関係じゃ…!」

「えー?
ちゅーか、速水は俺の運命の相手でしょぉー?
これから二人、愛を育もーよ!」

速水の尤もな疑問に返ってきたのはまさかの電波な答え。
運命って…、浜野クンってそういうキャラでしたっけ?
速水は浜野(♀)のいきなりのキャラチェンに頭を抱えた。


「どうしてそうなるんですかぁ?
さっぱり意味が分かんない、俺が駄目なんですかぁ」

ついに泣きそうになった速水に、さすがの浜野もその暴走を緩めた。
チューの構えを解き、怯えている速水の前に座るとしょんぼりした口調で説明を始めた。


「ちゅーかさ、俺、女の子になった訳じゃん?
んで、俺って元々速水と一番仲良くて、すっげー好きじゃん?
しかもさ速水は俺が速水に会いたいなーって思ってた瞬間に会いにきてくれたし、これは神様が『お主は速水と結ばれて幸せになるんじゃよー』って教えてくれたんだと思っちゃったんだよね」

うん。うん(照れ)。うん?と浜野の話に二回頷いた速水は、最後の一文に首を傾げた。
その説明では説明になっているようで筋が通っていない。
男同士の時はラブい事をしてこなかった浜野が、女同士になった途端に急にラブラブな行動をするようになったのは何故か。
速水が偶然会いに来たぐらいで運命感じちゃったのは何故か。
そもそもなんで速水に会いたいと思っていたのか。
腑に落ちない事柄はいくつもある。
速水は黙って浜野の説明の続きを待った。
しかし浜野はそれを納得と判断したのか、少しはにかんで速水の手を握った。
そして再度、自分の胸へと導くとニコッと微笑んだ。


「だからさ俺、速水になら何をされてもいいよ。
胸だっていっぱい揉んでいいし、エッチな事も沢山してよ。
俺の事、速水の好きなようにいーっぱい触って?
ちゅーか、俺、速水に俺の彼氏になって欲しい。いい?」


やや上目遣いにまっすぐ速水を見つめる瞳も、微かに染まった頬も。
それに何より、重ねた手に感じる浜野の胸の鼓動の早さが。
浜野の真剣さを速水に痛いほど伝えていた。

真剣な浜野の告白に、速水の胸もドキンと高鳴った。



・・・なんていう展開にも当然ならず。
速水はズコーンとずっこけた。


「もしかして俺も女の子になってるの気づいてないんですかぁ!?
浜野クンの馬鹿ぁ!!」

速水早すぎる二敗目に、最早トラウマ級の敗北感がずっしりと速水の細い肩に圧し掛かる。
浜野クンに胸揉まれちゃったらどうしましょ〜。
…などと心配していた自分を消し去りたい夏の日の朝だった。


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