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「ハア…ッ、ハア…ッ、ハア…ッ」

速水は自分の部屋に逃げ帰るとベッドに倒れこんだ。
ありえない現実に頭がくらくらする。

ど、ど、どうしましょ〜〜〜〜!
俺の身体、女になってますよぉ〜〜〜。
な、なんで俺がこんな目に〜〜〜〜!!

速水は昨日の行動を思い返してみた。
部活、帰宅と判を押したようにいつもの行動と変わりない。
何度思い返してみても、別段変わった事なんて一向に思いつかない。
午前中は部活で走りまくって、帰りに浜野、倉間とコンビニに寄ってアイスを買って、家に戻ってからは音楽聴きながら部屋でごろごろとしていた。
なんの変哲も無い夏休みの一日だ。


「ハッ!」

がばっとベッドにうつ伏せになっていた速水が起き上がる。

――そうだっ!もしかしたらコンビニで買ったアイスに何か含まれていたのかもしれないです!
きっとこうですよ…。
(以下速水君のちょっと変な妄想劇場)


ある日少子化に悩んだ政府は画期的な法案を議会に提出する。
そう名づけて「男子TS法案」
ギリシャ神話の時代から、聖闘士☆○矢の城戸○政まで子沢山の逸話は全て父一人に対して母多数である。
男性の一部を女性化し、数の少なくなった男性と数の多くなった女性とで一夫多妻で子孫を繁栄させていこうという男性のハーレム願望の詰まった法案である。
まだ二次性徴の完了していない中学生の一部をその対象とし、密かに人体実験が行われている事をまだこの国の国民は知らない……。


「うわあああ、俺、おしまいですぅうううう!!
これから俺はモルモットとして沢山の学者や医者や政治家の前で知らない男性との性交を強制させられるんだああああ!!
それで妊娠するまで子種をお腹に注がれちゃうんですよぉおおおお!!
『やらあああ、赤ちゃん出来ちゃうううう』って俺が泣いても誰も止めてくれないでデータとか冷静に取ってるに決まってますよおおおお!!」

大きく首を横に振り乱しながら速水が叫ぶ。
窓が開いてるのは最早速水の頭の中には無いらしい。
大変遺憾である。
だがすぐ速水がハタッと動きを止める。


――アレ…、でもそれならコンビニのアイスに性転換薬を混入するのは危険ですよね。
俺が買ったからいいようなものの、俺の後に買ったトラックのおじさん(熊科まだらハゲ属)がそのアイスを買ってたら「男子TS法案」はその時点で満場一致で否決されちゃいますよ?

そうですよね、アイスに怪しい薬が混入してたなんてある訳ないですよね…、と速水はもう一度ベッドにうつ伏せに倒れた。
色々と残念な思考回路ではあったが、結論として正しい方向に落ち着いたようだ。


「ハッ!」

またもやがばっと速水が起き上がる。

――そうだっ、きっと記憶操作ですよ!
宇宙人が帰り道で俺を拉致って性転換手術を施した上でその記憶を奪ったんですよ!!
きっとこうですよ……。
(以下速水君のちょっと変な妄想劇場二回目)



広い宇宙の中の片隅にある地球。
そこに住む彼らは未だ気づかない。
宇宙からの来訪者が度々地球に訪れていることを…!
彼らは密かに地球を訪れては様々な人体実験を重ねてきた。
そしてついに彼らはある一つの考えに到った。
「遠き星エイ○アからやってきた我々とこの地球人とで交配は可能であろうか」と。
そしてその宇宙人達は偶々遭遇したとある地球人を被験体として確保したのであった…。


「うわあああ、俺、おしまいですううう!!
多分その宇宙人は雄しか存在しない種で、異属種の雌としか交配しないんですよおおお!!
しかもその王と交配した種は例外なく絶滅しているから異種食いとか呼ばれちゃってるんですよおおお!!
その王が目を付けたのが俺で、「この私が選んだ存在が雄なはずない。きっと身体のどこかにトラブルがあるに違いない」とか自信満々に言っちゃって俺の身体の遺伝情報とか調べて雌化したに決まってますよおおおお!!
きっと完全に俺の身体が雌に定着した頃また迎えにくるんですよおおおおお!!
うわあああんん、地球も俺もおしまいですううううう!!」

大きく首を振りながら速水がまたも叫ぶ。
どうやらその手の漫画を読んだばかりらしい。
ドリームにも程があるというものだ。
大変遺憾である。
だがすぐ速水がハタッと動きを止める。

――アレ…、この想像って俺の記憶が消されてるって前提の時点で否定って無理じゃないですか?
現に俺の身体は女体化してるわけですし…。
え、え…、ど、どうしましょう…。
このままじゃ俺、宇宙人の嫁にされる可能性があるって事ですよね…。
無策で自分の部屋に居たらヤバいんじゃ…。

あわわわわ〜、と、とりあえずどこか他の場所に逃げないと…!と速水は慌てて着替え始める。
なんと!今回は残念な思考回路な末に残念な結論に到ってしまったようだ。
速水は出来るだけ自分の身体を見ないようにして素早く服を着る。
ほんの少しゆるくなった服の襟元からなだらかな山を描く胸元が見える。
速水は急いで目線を逸らすと、大慌てでボタンを留める。

えーっと、えーっと、今の俺は可愛い女の子(自称)なんですよね?
だから適当な人の所に行ったら襲われかねないって事で…。
はわわわ、女の子の身体じゃきっと抵抗なんて出来ないですよぉ!
ば、バレないようにしなきゃ…!!

速水の考える事はネガティブなんだか自信家なんだか判断に苦しむ。
が、ぐるぐる悩みすぎて混乱してるだけで本人は至って真面目に悩んでいるようだ。


――ああ〜、心配で気を抜くと卒倒しそうですよぉぉぉぉ!!
でも駄目だ!ここで気絶する訳には…!
と、とにかく、ここを脱出しなきゃ…!


眼鏡を装着した速水はふらふらと立ち上がる。
女体化速水の明日はどっちだ……!



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