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あー…、いい天気だなぁー…。

寝転んで見上げた空は、青い空に白い雲がぷかぷか浮かんでまさに絵に描いたような晴天だった。
ちゅーか、まさにサッカー日和?
って、どんなに晴れようが速水が居なかったら意味ないんだけど。


走って逃げた速水は、結局朝練には来なかった。
……どう考えたって避けられてるよなぁー、俺。
で、凹んだ俺は授業をサボってサッカー棟の緑溢れる快適なベランダでごろごろしてるとこ。
本当はこんな風にサボってんのがバレるとサッカー棟自体が使用禁止になって部の全員に迷惑掛かるから厳禁だったりするんだけど、今日だけは勘弁して欲しい。
朝の泣き顔と朝練拒否で、俺もう一歩も動けそうにない。
速水が朝練に来なかったのに平気な顔で授業とか受けられっこないし。
ちゅーかさ、マジでもう勘弁してよ。
これで速水が教室にも来なかったら、俺もう立ち直れない。
教室にさえ来ない速水を見たくなくて、動けなくなったビビリな俺はこんなとこで一人空を見上げてる。


でも今の俺には今日の青空は眩しすぎて、ごろりと横になって背を丸めた。
……さすがにさ、あの泣き顔はキた。
一生懸命「平気です」って顔しようとしてるのに、それでも涙が止まらないって顔してたんだもんなぁー……。
それってさ、ぶっちゃけ「今まで通りの友人付き合いをしようと努力したけど無理でした」って意味じゃないの?
そーだよなー…、今まで親友面して仲良くしてたヤツが、一皮剥けばここぞとばかりに全身舐めまわすようなヤツだったって分かったんだもんなー……。
速水にとっては青天の霹靂ってやつだろ?
それなのに速水は精一杯俺との仲を壊さないように平気な顔しようとしてくれたって事だろ?
速水からの「友情」を、痛い程感じたよ。
ありがたいって思う反面、心がキュウッて軋んで涙が浮かんできた。
朝練休んで、速水もどっかで一人泣いてたのかなぁ。
そう思うと俺なんかが泣いていいのかって思った。
一人で泣いてた速水を想像するとまた胸の辺りがキュウって軋んだ。



ダンッ!!
俺は力いっぱい拳をベランダのコンクリートに叩きつける。
コンクリートと力比べして、勝てなかった分だけ拳に痛みが走りぬける。
負けると分かりきった力比べをわざとしたかった。
分かりやすい罰を自分に与えたかった。


――あんな事……、するんじゃなかったッ!!

なんで性欲なんてあるんだよッ!!
ちんこから精液出すだけじゃんか!!
しかもなんで一回スッキリしても時間が経ったらまた復活すんだよッ!!
呆気なく復活すんなよ!収まれよッ!!収まったままでいろよッ!!
欲望なのに愛とか恋と直結してんなよッ!!
性欲なんてちんこ擦るだけで収まる単純な事なのに、そのせいで複雑になんだろッ!?


叩いて、叩いて。
激情が落ち着く頃には、手の方はすっかり感覚が無くなってた。
俺は真っ赤に腫れ上がった手を軽く振ってみる。
うん、ズキズキする。
俺は動きの鈍い頭で、保健室に行かなきゃなって思った。
それから「ラッキー」っていうズルい安堵も。
これで俺は早退する理由も、部活を休む理由も手に入れた事になる。
今日俺が早退するのも、部活を休むのも、手がズキズキと痛いから。
そう皆に胸を張って言える。


保健室で包帯をぐるぐる巻きにしてもらった手を青い空に掲げると、雲に負けないぐらい包帯は白く輝いていた。
せんせーには骨折はしてないし大丈夫って太鼓判おされちゃったけど、包帯がぐるぐる巻いてある手の平はパッと見すっげー痛々しい。
ちゅーか、それで充分っしょ。

でも、俺は結局、早退出来なかった。


「は、浜野くん……」

荷物を取りにサッカー棟まで戻ると、俺のロッカーんとこに速水が居た。
泣きはらした目で俺を見つめる速水がロッカーの前に立っていた。
ドクンと音を立てて全身の機能がストップする。


「あ、あのですね……」

俺の姿を認めて、躊躇するように速水が口篭る。
そして決心を固めたような表情で俺を再度見つめ、俺に一歩近づいた。


「あのっ!俺、また怖くなっちゃったんです!!
昨日のまたシてくれませんかぁ……ッ!?」

速水が伸ばした手が俺の服を掴み、そこだけキュウッと深い皺を作った。



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