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速水さんの指が俺の背中を這い回る。
それはいい、それはいいんだ。思う存分速水さんが触ってくれていい。
寧ろそこはお願いしますと土下座も解さない覚悟だ。
だがっ、それはいいとしてもこの体勢とこの状況は如何ともしがたい。
今の状況を冷静に説明するとこうなっている。


1、俺の背中を触る為に速水さんは今、俺に抱きついた状態で背中に手を回している
2、広い範囲を触る為なのか、速水さんの顔は俺の胸に張り付いている
3、俺の両手は速水さんによって羽交い絞めにされている為身動き不可
4、当然俺も速水さんも着衣状態
5、速水さんの手は俺の服の中に潜っている
6、速水さんは俺の脚に跨っている
7、速水さんは俺の背中を触る事に一心不乱


分り易く箇条書きにしてしまったのは、少しでも冷静になれればという俺の努力の表れだ。
ああ、箇条書きにすると俺の今の状況の過酷さが際立つ。
1と2に関してはなんの問題もない。
何度でも言う。
寧ろ土下座して「触って下さい!!お願いします!!」と世界の中心で叫んでもいい。
そうッ!問題は3〜7だッ!!
今の俺は折角速水さんが俺の腰に乗って可愛く息を乱して俺に抱きついて触ってきているというのに、俺の方からは一切触れられないのだッ!!
ああッ!!俺の腕が少しでも動けたらッ!!
こんな時でもサッカーのルールが適応されているのか!?
ハンドは即レッドカードなのか!?そうなのか!?
それなら今すぐ俺はゴールキーパーに転向してやる!!
どっかのピカチュウやらブロッコリーよりも雷門のゴールを守る鉄壁の守護神になってやる!!
今の俺なら魔人グレイトでも何でも気合で出るだろう。
だって一刻も早く今の状況をどうにかしないと、魔人グレイトどころか別の物が出てしまうッ!!


どうして速水さんの腰がもぞもぞと煽情的に動いているんだ。
これは叛乱側に寝返った俺に「デスドロップさん」という不名誉なあだ名を付けようというフィフスセクターの陰謀か!?
せめて服を脱いでいたら速水さんの吐息が俺の鍛え抜かれた胸筋に掛かって乳首ックリ、たちまち乳首ックでビクンビクン!!
・・・いやいや、それでは俺がまた一歩「デスドロップさん」に近づいてしまう。

そうではなく、せめて速水さんが俺の背中を触ることばかりに一心不乱でさえなかったら。
せめて俺の方に意識を少し向けてさえくれたら。


そうしたらキス出来るのに。


こっちを向いて下さい。
俺の胸に押し付けている可愛い顔をほんの少しでいいから俺に向けて下さい。
そうしたらいっぱいいっぱい速水さんの欲に塗れた姿を堪能して、浴びせる程にキスを降らせるのに。
そのすぐに涙の浮く目尻も。
すぐに皺の寄ってしまう眉間も。
小さな鼻も、柔らかな頬も。
勿論、いつも言いたいことも飲み込んでしまうその慎ましやかな唇にも。
今すぐにでも沢山のキスをして、その薄い唇を割って、中に隠れている舌はどんななのか暴いてしまいたい。


ああ、こんな速水さんの動きに合わせて一生懸命キスするチャンスを伺ってるしかない状況をどうにかしたい!!
フッ、まさか速水さんも夢中になってる頭上で俺がタコチュウの口をしてどうにか顔にぶちゅっと出来ないかとチャンスを狙ってるとは思うまい。
・・・なんて格好付けてもタコチュウの顔では、格好がつかない。
ムッ、もしかしてこの瞬間に速水さんが俺の願いを恋人同士のテレパシー(中二的願望)でキャッチして顔を上げたとしたら、俺のこの格好悪い姿を見られてしまうということか!?
・・・それは拙い。
凄く拙い。
俺の寡黙で鋭い、男らしいイメージが崩れてしまう。
折角当初の「ふてぶてしくって何考えてるのか分からない」から良い印象はそのままに悪いイメージだけを削ぎ落とす事に成功したのに。
いや、それでころか速水さんに格好悪いと幻滅されてしまったら……!


「速水さん」

う、思わず焦りが声に出てしまった。
俺が速水さんの名を呼ぶと、速水さんの顔が弾かれたように上がる。
ふぅ、とりあえず俺の変顔は見られなかったようだ…。
とは言うものの。
名前は呼んだものの、何も考えていなかった!
速水さんの不安そうな視線が突き刺さる。
ああ、そんな不安そうな顔しないで下さい。嫌だったんじゃないんですから。
どうする、この状況!?どうする、俺!!


「俺も……。
俺も触れて、いいですか?」


フッ…、どうだこの本能に忠実な俺の発言は。
人間慌てると本音が出てしまうものなのだな、一つ学んだ。
本当に!!
俺は真顔でなんてエロ親父発言をしてしまったんだーーーッ!


「えっ!?
あ、あのですね…、えっとー、えっとぉですね…」

あ、いいです。
この速水さんの恥らう顔が見れただけで本望です。
さっきの切腹セクハラ発言も報われるというものです。


「お、俺には無し、…じゃ駄目、ですかぁ?」


速水さんが俺の背中から手を離し、片方の手は俺の腹部に、もう片方の手は自分の口元を隠して俺を見上げる。
ああっ、この瞬間を誰か写メってくれ!そうしたら待ち受けに出来るのにッ!!
ああっ、駄目だ!それでは俺以外の人間にこんな可愛い速水さんの姿を見られてしまう!!
あー、俺が分裂して撮影班(アングル違いで×3)と俺になれればいいのにッ!!

・・・って、いやいやいや!
速水さんの可愛さに夢中になってる場合ではない。
速水さんは今、俺におさわり厳禁とまさに「ハンドは即退場」宣言をしたんだぞ!?
なんだそのルール!!
俺は今以上にGKというポジションを羨んだ事はない。

俺は口元を隠している速水さんの手を握り、俺の腹部にある手と揃えて握る。


「駄目、…と言ったら貴方は俺を嫌いになりますか?」


 

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