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「ほ、本当はですね…、もっと……」

「え…?」

泣きそうな顔した速水さんが扇情的な言葉を吐き続ける。
好きな人が泣きそうだというのに、フリーズした俺は気の利いた言葉の一つも吐けず、ただぎくしゃくと速水さんを見つめ続けた。
もう、この愛しい人が何を言い出かすのか目が離せない。


「もっと、剣城くんに触りたいんです…。
だ、駄目ですかぁ……ッ!?」


ぐッ!
この世にこれ以上可愛いものが存在しようか!?いや!しない!!(反語)
泣きそうになりながらも俺に触る許可を求めるなんて、なんてこの人は可愛らしい人なんだ。
潤んだ瞳に下がった眉。
ここまでは速水さんの通常オプションと言えよう。
だがッ!ここに更に俺の服を掴む&必死さ&恥じらい(最重要)&太腿に当たってるナニか(重要だが己の理性の為にも深く追求してはいけない部分)がプラスされる事により淫らな中に慎み深さがミックスされより深い興奮を与える存在となっている。
ああっ、本当に速水さんに出会えて良かった…ッ!!
ありがとう聖帝!!ありがとうフィクスセクター!!
俺の赴任先に雷門中を選んでくれて!!
万能坂とか海王とか、荒くれ野郎ばかりの学校じゃなくて本当に良かった…ッ!!
地球に生まれて良かったああーーーッ!!


…違う!いや違くはないが地球に感謝してる場合ではない。
泣きそうな速水さんに返事をしていないではないか。
もっと触りたいという提案に諸手をあげて賛成である事を、速水さんに恐怖感を与えない程度にやんわりとそれでいて濃厚に伝えなくては…!
どうやってこの溢れんばかりのリビドーを抑え、この日の為に鍛えたと言っても過言ではない己の太腿を速水さんに差し出そうか。
いや、太腿よりも腹筋の方が「あらやだ、うっかり下まで降ろしちゃったせいで隠さなきゃいけない部分までコンニチハ!!いえいえ不可抗力です!でもこっちも大変固くなっているので、存分に心行くまで触って下さい」とうっかりミスを装いやすい気がする。
いやいや、いっそ太腿を差し出す為にズボンはポイッしてしまうか。
そして速水さんの細いのに鍛え抜かれた太腿と触りっこを提案するというのも捨てがたい。
ああ、あの筋肉とふにふにしたお肉のバランスが神掛かった脚に触れるのか…!
速水さんの太腿には神が住んでいると言っても過言ではない。


「ご、ごめんなさい…、こんな事言うなんて…ッ。
お、俺…、でも…ッ!」

!!
俺がすっかり妄想の世界の住人になっている間に、速水さんの黒目が可愛い瞳に涙がぷっくりと丸く浮かんでしまっている。
そうだった、すっかり返事をし忘れていた。
速水さんの不安そうな顔は堪らなく可愛いけれど、このまま眺めている場合ではない。
早急に返事をしなければ、速水さんは走って逃げてしまうとも限らない。
ど、どうにかしなければ…!


「…落ち着いて」

俺は咄嗟に速水さんを抱き寄せてしまった。
クッ、落ち着くのは俺の方じゃないか!!
速水さんを落ち着かせてしまっては駄目だろうが!!
いや、でもここは勢いでヤってしまうよりも一旦速水さんを落ち着かせて普段の速水さんに戻ってもらってゆっくりと二人の関係を深めていく方が絶対良いに決まっている。
でもでも俺自身の我慢の限界ですぐにでもファイヤートルネードしてしまいそうで、そうなるとそれは単にデスドロップでしかなく変態の烙印を押されてしまう。
鬼畜として速水さんに気絶されるのと、変態として速水さんに逃亡されるのの二択というのはなんという究極の選択!
だが、それなら俺は敢えて鬼畜となろう!!
本懐を遂げる事が出来るなら、それぐらいの汚名は甘んじて受けよう。
いやいやいや!何を俺は自分基準に考えているんだ。
ここは速水さんの気持ちを尊重すべきだろう。


「剣城くん……」

って、ぬおおおお!!
俺が自問自答を繰り返している間に、速水さんは泣きそうな表情を感激と称するに相応しい表情に変わっているじゃないか。
いや、ここは敢えて言おう。
「俺にうっとりとしている顔」であると!!
ここは攻めの好機!この機を逃したらFWの名折れ。


「速水さん…、俺は速水さんになら何をされても怒ったりしません。
速水さんの好きなように、していいんですよ」

俺はちゃんとやれただろうか。
速水さんの熱を冷ます事無く、俺の優しさも上手くアピール出来ただろうか。
俺の顔は兄さんからよく「目付きが悪くて怖い」と言われてしまうから、少し不安なのでここでニコッをプラスだ。


「…速水さんのしたいこと、俺にしてください」

「剣城くん……」


ダメ押しとばかりに俺が囁けば、速水さんは少し口元を緩ませてうるうると見上げてくる。
う…っ、今の顔はヤバかった…。
危うく俺のアソコが本当にデスドロップするところだった。
これが俗に言う「キス待ち顔」ってヤツか…。
破壊力はファイヤートルネードDDに余裕で勝っている。
これからキスをする度にこの顔を拝めるのか。
いつか本当にデスドロップしそうで怖いな…。
いやいやいや、今はそんな心配している場合ではない。
今は「速水さん」と「ファーストキス」のチャンスなんだぞ!?
俺からのキスを待ってる速水さんをこれ以上待たせてはならない。
俺は速水さんのぷるるん口唇に、自分の口内に溜まってしまった唾を飲み込んでからそろそろと顔を傾け近づける。
・・・つ、ついに速水さんとキス出来るんだ…!


でも速水さんは俺の唇が届く前にニッコリ笑って言った。


「じゃ、じゃあ直接触ってもいいですか?
俺、剣城君をいっぱい感じたいんです!」

そう言うと抱き付くように俺の背中へとその細い腕を回す。
直後にひやっとした指が恐る恐る俺の背中を這い回る。
俺の背中のどこに筋肉がついているか確かめるようなその動き。

・・・俺の想像よりも遥かに速水さんはイヤラシイ人だった…。



 

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