difference in age 年下の人



「〜〜〜〜〜ッ」

首に掛かる速水さんの吐息に身体が強張る。
すぐそこに顔があるはずなのに、視線を向ける事さえ出来ない。
どうしてこうなってしまったのか。
恥ずかしがりやだと思っていた人は、想像以上にイヤラシイ人だった……。



「……ッ!」

首を速水さんの舌がぬるぬると這っていく。
背中に回った手は幼子が縋るみたいに必死に俺の服を掴んでいる。
どうやら力が入らないらしく、細い腕がふるふると震えている。
それなのに、あぐあぐと速水さんは俺の肩に齧りついている。


「はぁッ、はッ、…ん、つるぎ…く…ッ」


切なげに呼ばれる俺の名前。
呼んでいるのは俺の好きな人。
・・・恋人、だと俺は思っている。
好きだと、俺の気持ちはしっかりと伝えてある。
ただ好きだと伝えても、この可愛い人は「はわ、はわわわッ」としか言ってくれない。
初めて告白した時はそれプラス走って逃げるというオプションまで付いた。
それを俺の弛まぬ努力で少しずつ距離を縮めてきた。
入部当初は俺の姿を見ただけで気絶しそうになっていたのを考えれば、登下校を一緒にしてくれるというのは凄い進歩だと言える。
最近では俺の前で笑うようにもなってきた。
俺の思い込みではなく、恋人として見てくれてると信じられるようになってきた。

そんな中の今日だ。

夕立というハプニングがあったせいという事を差し引いても、今日俺の家に寄ってくれたのは奇跡に近い。
案の定速水さんは可愛いぐらいうろたえて逃げ帰ろうとさえしていたのに。


「ふぁ…っ、つるぎ、くぅんン…、固いですよぉ…ッ」


どうしてそんな速水さんが俺の上で腰を揺すりながら、俺の肩を甘噛みしているんだ?
・・・・・・・・・誘われてる?


…いやいやいや。
そんなはずは無い。
俺の好きな速水さんはすごく恥ずかしがりやで、積極的なところなんかなくて。
控えめでいつも誰かの影に隠れてて。
人見知りで、初めての事にはなんでも尻込みして逃げてしまうような人なんだ。
恋人相手にも照れてしまって目も合わせてくれないような人なんだ。
まだ手だって握ってないし、キスなんてとてもとても。
だから、そんなまさか……。

俺はまさかという気持ちでちらりと速水さんの様子を窺った。


「ッ!」

はっきり言おう。
直視出来ない。いや、しちゃいけない。
濡れ髪の速水さんでも十分破壊力抜群だったのに。
性欲など欠片も無さそうな草食系がぎこちなく興奮している姿の破壊力はそれこそ凄まじい。
今の速水さんは例えて言うなら「雨降りしきる中濡れながら泣いている捨て猫」を拾って帰ったら発情期でそのうえ人間に変身してあら大変。
裸体で尻尾に猫耳の可愛い子ちゃんがゴロにゃあご。
というエロ漫画的存在に近い。
これは早くどうにかしないとこちらの理性が保たない。


「…速水さん」

俺は内股で俺の腰に跨り肩の筋肉をそれこそ猫みたいに甘噛みしている速水さんの揺れている腰を両手で抑えた。
咎めるように名を呼べば、夢中になっていた速水さんがハッとして視線を俺に向ける。


「あっ!す、すみません…ッ!
痛いですよね。す、す、すぐ止めますから…ッ」

「あ、…いえ痛くはないです」


泣きそうな顔で速水さんが謝るものだから、俺は慌てて否定した。
速水さんの甘噛みなどじゃれてるようなものだ。
ぞくぞくと興奮こそすれ、痛いなど微塵も無い。
時折チロリと舐める舌がこれまた堪ら…。


・・・違う。
そうじゃないだろう。
そういうあれやこれやが堪らないから我慢が利かない、襲うぞコラという話が本題じゃないか。
更に言ってしまえば、速水さんがこんな事してる本意が分からないというのが問題なんだ。
いざその気になった時に速水さんが「ヒッ、つ、剣城くん…、こ、怖いですよぉ…ッ」と泣かれたらどうしようというのが本音だ。
そんな事になったら今までの苦労は水の泡。
また最初から俺は紳士で決して無軌道に襲わないと理解してもらう努力をし直さないとならない。
それは困る。
あと一歩で手を繋いで登下校の夢が叶いそうだったのに。
ああ、だがこの誘惑に勝つのは容易ではない。


「あのっ、あのですね…ッ!剣城くん、俺、俺…っ、俺ぇ…ッ!」

痛い訳ではないと言ったはずなのに、それでも俺の咎める声の調子に速水さんは一気に不安を煽られたようだ。
何か言いたげなのに泣きそうな顔で俯いた。
それなのに背中に回った手はさっきよりも力が込められている。
クッと服が背中側に寄る。


「……我慢、してるんです」

「はい?」

俯いたままなので普段よりも一際小さな声はほとんど聞き取れなかった。
俺が聞き直すと、速水さんは涙を堪えた顔で俺を見つめた。


「でも我慢出来ないんです…ッ!
噛むとかしちゃいけないって分かってるのに、剣城君の身体を見てるとドキドキして……。
俺、どうしちゃったんですかぁ……ッ!?」


 

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