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「あっ、あのですねっ、…えっと、そのぉ〜、…きょ、今日!この後、…ぉ暇、デすかぁ!?」

部活終了後の部室で、もじもじと自分のバッグを抱えながら、真っ赤な顔で言ってきた速水に浜野は思わず笑ってしまう。


先日、速水のイタイ心配事に浜野が解決策として授けた『俺と付き合えばいい』という言葉。
それ以来速水は浜野の前で始終こんな調子だった。

朝、ぽんっと肩を叩いて今までどおり挨拶をすれば、文字通り3cmぐらい飛び上がり得意のゼロワンで逃げてしまったり。
練習中でさえもパスを要求した途端、挙動不審になりドリブルの足が縺れボールの上に乗ってしまい転がる始末。
その後は散々倉間や狩野に浜野の真似かとからかわれていた。


それも全部浜野の一言が原因だとすれば微笑ましい。
浜野自身も、自分の一言に一喜一憂している速水を可愛いなぁ〜なーんて呑気に思っていた。


「うん!暇、暇ぁ〜。
ちゅーか、なんか用?」

バッグに適当に荷物を詰め込む手を止め、浜野はニコニコと速水に向き直る。
ぐるぐる悩んでいた速水がやっと声を掛けてきたのだからおざなりになんて出来ない。
というより、ここ数日の速水の様子に浜野もすっかり速水が最重要懸案になっていた。

浜野はにこやかに快諾したというのに、速水はきょろきょろと不審気味に辺りを見渡す。
当然周囲には厳しい練習に疲れて、ダラダラと着替える部員が沢山いる。
速水はまたキュッとバッグを抱える手に力を込める。
黒目勝ちの瞳をきょとっと泳がせて、浜野を俯きがちに見つめた。
ん?と笑う浜野に速水はかぁーっと顔を染めた。
そして、んっと唇を覚悟を決めたように噛み締めてから、周囲を憚る様に一歩浜野へと近づいた。


「あっ、のですね…っ、俺は、ど…したら、イイのかなぁ?と、ぉ、思いましてぇ…」

「何が?」

キョトンとする浜野に速水は更に泣きそうな顔になる。


「だから…アレ、でス。…ご、ほーし」

消え入りそうな声の速水に思わず浜野が聞き返す。

「誤報牛?」

大きな声の誤変換に速水は慌てて浜野の口を押さえる。
幸い視線を遣したのは神童や霧野、三国といった部の世話係グループのみだった。
速水は浜野と顔を近づけて声を潜めて話始める。


「御奉仕!
俺、浜野クンと専属契約結んだじゃないですか!?」

「ええっ!?お前って付き合うイコール性奴隷なの!?
どんだけ知識偏ってんの?アレか?これもゆとり教育の弊害!?」


「だから俺、いつお声が掛かっても平気なように色々準備してたんです」

「うわ〜…、どんな準備してたか聞きたいような聞いたらお終いのような…」


「浜野クンはノリがいいから、やっぱり淫乱ちゃんの方が好みなのかなぁと思って、取りあえず乳首開発したり」

「何、そのイメージ!中学生で淫乱ってそもそも無いから!
それに何『取りあえず乳首』って!まずそこ!?そこから取り掛かっちゃう!?」


「浜野君は平気でチンポ咥えさせそうだからフェラの練習してみたり」

「うっわ、お前最近やけにフランクフルトとかチョコバナナとか食べてたの練習だったの!?
どこでお祭りやってたんだろうって皆に聞いちゃった俺の努力返せぇ!」


「それに開放的だから青姦好きかなぁと思って、外でも脱げるように練習したり」

「えっ、ちょっ、お前どんな練習したの!?
まさか外で脱いでないよね!?ヌードになったりしないよね!?
それ公然猥褻だから!見つかったら即後ろに手回っちゃうから!!」


「もしかして最初っからSMかなぁと思いまして道具も色々揃えまして」

「げっ、もしかしてそのやけにパンパンなバッグの中に入ってる?
そのやけに硬そうな筒状のモノはコールドスプレーじゃなくてまさかの蝋燭!?」


「中学生にありがちな強引な挿入にも耐えられるように拡張してみたり」

「えっ。…ええっ!?おまっ、何を拡張してんの!?どーこーをー拡張してんですかぁ!?
学校の入り口と同じ名前の場所拡張しちゃってんじゃないよね!?まさか!?」


「というより今も広げる為に中に入ってまして」

「ナニが!?ねえナニが入ってんの!?
お前、部活中にトンデモナイもの入れてんな!入れるならゴールに点入れろよ!
そこ広げても夢も希望も入ってかないよ?
入るどころかそこ出てくとこだから!」


「俺だけじゃ満足出来ないかもと思いまして、色々玩具も用意しまして」

「いやああ、なんか速水のバッグん中からウィンウィン音がするんですけどぉお!
なんかウネウネとバッグの一部が卑猥な動きしてるんですけどおお!
蝋燭かと思いきや、予想の更に上をいくモノ、バッグん中に入ってたからああ!」


「でも俺がどんなに準備しても浜野クンは何もしてこなくて。
もしかして俺、もっと頑張らないと駄目ですか!?
やっぱりドライぐらい決められるようにならないと気に入って貰えませんか!?」

最後に間近で縋るように見つめてきた速水に浜野ははぁーっと溜息をつく。
浜野が微笑ましいなぁと思っていた速水の行動は、裏を返せば相当エグかった。

でも、こんな風に涙を浮かべて自分を見つめてくる速水はやっぱり可愛くって何を仕出かすか分からなくて目が離せない。
浜野は自分よりも背の高い、この心配性の速水が可愛くって仕方ないのだ。

浜野は屈んで上から心配そうに自分を見つめている速水の頭をぽんっと叩いてから立ち上がった。


「ちゅーか!それ全部無駄かも!
んー、無駄って事はないかも知れないけど、今は必要ない!」

「えっ!?そ、そうなんですか!?」

「そ!
だってまずはこれからでしょ?」

そう言うと浜野は速水に向かって片手を広げてみせる。

「手!
校門のところで待ってるから、今日は繋いで帰ろーよ!」

浜野はそう言うと自分のバッグを持って部室を出て行ってしまう。
残された速水は遠ざかっていくその背中にぽつりと呟く。


「…どうしよ〜!?
浜野クンが手フェチだったなんて〜!
俺、脚は兎も角、手になんて自信無いですよぉ。
浜野クンが俺の手を気に入ってくれなかったらお終いだぁ〜」


 END?

  

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