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「やっぱり俺、性奴隷は無理って断ったんです」
「えっ、何、いきなり!?
夢!?この前の夢の続き!?」
眉を寄せて決意の固い顔で言い出した速水に浜野のツッコミが炸裂する。
だが、思い詰めた速水にはそのツッコミは届かない。
そのまま話は続行される。
「でもね、皆が今度はちゃんと理由まで言い出して俺を説得し始めたんですよ」
「あー、はいはい」
夢の話と分かりきってる浜野は早くも愛読書『釣り馬鹿新宿日誌口駅の前』を広げる。
傍らにはコーヒー牛乳とすっかり寛ぎモードになっている。
まるっと聞き流すようだ。
「まずですね、部員がそもそも勃たないような相手が除外されて」
「あー、天城先輩は俺も無理」
「そう!天城先輩と車田先輩は無理ってなっちゃいまして〜」
本片手のやる気のない相槌にも気づかない様子で速水の話に力がこもる。
「それからビジュアルが犯罪な相手も除外になっちゃいまして〜」
「ああ、西園とか襲っちゃマズいよ。
確実に後ろに手が回っちゃうよ。同意の上って言っても言い逃れ出来ないよ」
「そしたら次は恋人がいる人は無理とか言い出してきて〜」
「ちゅーか、そもそも恋人が居るなら性奴隷いらないじゃん!
恋人居るのに性奴隷にご奉仕させちゃ駄目じゃん!
そこはちゃんとしとこうよ!」
「もうその時点で候補がほとんどいなくなっちゃっいまして〜」
「えっ、ちょっ、何ソレ!?お前どんだけうちの部ホモばっかって思ってんだよ!
どっかの痛い腐女子の妄想!?
いないよ?現実にはサッカー部にはホモいないからね?」
「残りが俺と浜野君と倉間君だけになったら、浜野君が『俺、タチだから無理ー』とか言い出しまして〜」
「ちょっ!三国さん、三国さんはどこいったの!?
お前ん中のカップリング、すっげー気になる!」
「俺と倉間君だけになったらいきなり天城さんが『倉間はSに見えてどMだから無理だド。全員とSMしてたら倉間の体が持たないド』とか言い出しまして〜」
「ってかなんでそんな倉間の性癖を天城さんが言い出すんだよ!?
アレか?お前の中では倉間は南沢さんをはじめとした三年生の間で嬲り者にされてる設定なの!?」
「それで結局俺しかいなくなっちゃいまして〜」
「倉間のどMが除外されたんならお前も除外じゃね?
お前どMじゃね?」
「それでも俺が嫌がると、錦君が『もうイタリアではクラブに性奴隷が居るスタイルが主流じゃき』とか言い出しまして〜」
「ちょっ!誤解を招くような発言は危険だって!
イタリアの人怒るぞ!オーディンソード飛んで来るから!!」
「そんな事言われて皆に『やっぱり性奴隷は必要だよ!』とか言い出されると、俺もう断りきれなくて〜。
浜野君!俺、どうしたらいいんでしょぅ〜」
結局速水の話をちゃんと聞いてしまった浜野に速水が泣きつく。
丸い眼鏡の奥の黒目がちな瞳には涙まで浮かんでいる。
それを見て浜野はふぅ〜っと大きく伸びをした。
一行も読んで無かった本をパタンと閉じてから頭の後ろで腕を組んだ。
そしていつもの飄々とした感じでにっこりと笑って言う。
「しっかたないなぁ〜。
じゃあ、もし部活で性奴隷になれ!って言われたら、速水も『恋人がいるから無理です!』って言っていいよ」
思わぬ言葉に速水は涙も引っ込んで、目をパチパチさせる。
浜野が何を言ってるのか意味が分かっていない。
「えっ?それ…って、どういう…?」
キョトンとしている速水の肩をぽんっと浜野が叩く。
「『俺には浜野君がいるから無理です!』って言いなよ。
そしたら性奴隷にならなくて済むんでしょ?
な!これで速水も安心だ!!」
そう言うと空の紙パックを片手に教室を出ていく。
後には真っ赤になったり真っ青になったり忙しい速水だけが残された。
「…どうしよ〜!
それって浜野君専属の性奴隷になれって事!?
俺、こんなガリガリでそういう経験も無いのに浜野君を満足させる自信ないですよぉ〜。
浜野君に嫌われちゃったら、お終いだぁ〜!!」
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