OIL
「やっ、止めてください…っ!」
速水は懸命に自分の上に圧し掛かってくる見ず知らずの男を押し返す。
速水の全力の抵抗も、屈強な男にとっては容易くねじ伏せられるもの。
男の胸を押す速水の細い腕は、簡単に男の太い腕によって絡めとられ、草の生い茂る地面へと縫い付けられてしまう。
「やぁああ、っあぁー…っ」
弱弱しい速水の叫び声が人気のない夜の公園に木霊する。
乱暴に引き裂かれた服の間に男が顔を寄せる。
首筋に男の荒い息が当たる。
嫌悪感でぐっと吐き気がこみ上げてくる。
――なんでこんなことに…っ。
自分はただ活気付いて浮かれるサッカー部に馴染めなくて。
少し一人になりたかっただけなのに…。
いつもは浜野と一緒にいく釣堀に、
いつもは部活で行けないような時間に一人で行って、
それでも胸のモヤモヤした思いは晴れなくて、
一人とぼとぼと薄暗い道を少しでも気晴らしになればと音楽を聴きながら歩いていただけなのに。
・・・気づいたら知らない男に抱きかかえられ、いつも通り過ぎるだけの公園の木の陰に押し倒されていた。
「…へぇっ、モヤシみてぇな身体してっかと思ったら結構筋肉ついてんじゃねぇか」
男は速水の腰に跨り、ニヤニヤしながら速水の口に薄汚いハンカチを詰め込んでくる。
「ふぅーっ、んんっ!…ぐぅっううっ」
「可愛い声が聞けないのは残念だけど、邪魔されたくねぇからちょっと我慢な」
首を振って抵抗するも、男に顔を頬の辺りを押さえられると顔が固定され、しかも強く食いしばっていた口が微かに隙間を見せる。
その隙にハンカチをねじ込むと男は下卑た笑みを浮かべる。
「さぁーて、では御開帳といきますかね。
可愛い僕ちゃんのここはどんなかなー?」
「んーっ!んーっ!んーっ!」
叫び声を上げるも、汚らしいハンカチが言葉を吸い取ってしまう。
ハンカチを取ろうにも速水の腕は、男に二本一緒に頭の上で押さえれれていて動かせない。
男は速水の腰の下に手を入れると、器用に腕一本で速水のズボンを下着ごと剥いでしまう。
ふるりとした開放感のすぐ後に感じた草の感触。
お尻が直に地面に触れているという、普通の生活を送っていればあり得ない感触に速水は改めて恐怖を感じる。
まだ足にズボンが絡まった状態で、速水は懸命に暴れだす。
――ど、どうにかして逃げないと…っ!信じたくないけど、このままじゃっ!!
普段のネガティブで自己主張の薄い速水からは考えられない程、
その抵抗は必死で死にものぐるいだ。
腰を浮かせ、脚をばたつかせる。
――自分にはこの男を倒せる腕力は無いけれど、蹴りが上手い具合に入ればもしかしたら…。
サッカーで鍛えた脚と、自分が唯一自慢できる脚力が速水の行為を助長する。
「チッ」
案の定男は強い抵抗を始めた速水に、厭そうに眉を顰めると鋭い舌打ちをする。
そして離される速水の両腕。
――やった!
嬉々として速水は一刻も早く逃げる為に上体を起こす。
だが、そこにヒュンッと風を切って近づく男の手。
――…え?
気づいたら目の前にはまた地面がある。
顔にチクチクと草が突き刺さる。
でもそれ以上に反対側の頬が痛い。激しい熱を持って苛んでくる。
もう一度身体を起こそうとしても、頭の中がぐるぐるとして少しも言うことを利かない。
「ったく、てめぇが悪いんだぞ。逃げようなんてすっから。
あーぁ、可愛い顔が台無しじゃねぇか」
そう言うと確認するように速水に顔を近づける。
酒やタバコの臭いが混じった男の口臭に顔を背けたいのに、
速水は頭がくらくらして顔を逸らすことも出来ない。
「急に脳揺さぶられたから脳震盪起こしてんだろ。
当分まっすぐ歩けねぇから、逃げようとしても無駄だ」
目の焦点の合ってない速水を見て、男がにやりと笑う。
――もう…、おしまいだぁ。
その言葉と、先ほどの衝撃が速水から逃げる気力を奪う。
元々気の弱い速水は初めて受ける一方的な暴力に、簡単に心が挫けてしまう。
「ま、でもこれで両手が使えるな。
おい、喜べ。俺のテクは絶品だぞ。
何人もの少年を立派なネコにした俺のテクとチンポをお前も味わえるんだからな」
男の卑猥な俗語を、速水はただ虚ろな心で聞いていた。
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