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――わ、うわぁ…。触ってるの男…です…。

速水が混乱して何も出来ないでいるうちに、
電車の動きに合わせて痴漢の男は腰を摺り寄せてくる。
自分の体に密着して存在する熱量が、訳もわからず速水の胸をざわつかせる。


――痴漢の男は、こんな貧相な自分のお尻を触っただけで、こんなにも欲望を滾らせてますよぉ。

そう気付いたら、なんだかこの痴漢が自分に好意を抱いてる気さえしてしまう。
自分が凄く求められている気がする。

・・・今胸をざわつかせているのは不安や恐怖だけじゃないのかもしれない。


そこまで考えて速水は、はっとする。

――何を考えているんだ俺は!

危うい思考を振り払うように下を向いたまま首を振る。

――そ、そうですよ。今なら窓に犯人の顔が映るはず。

慌てて前を向いた瞬間、ジーっという小さな音とほんの少しの開放感を感じる。

「え?」

身に覚えのある感覚に、速水は犯人を確認する暇無く慌てて下を向く。


ぐらり


その非現実的光景に速水は頭の中まで揺れたかと思う程の衝撃が襲う。


満員の電車の中で、
 制服のズボンが摺り下ろされて、
   露になった性器に誰のものとも知れない手が添えられている…。


あまりの光景に、その仄かに芯を持ったその性器が自分のものとは思えない。
どこか他人事のように、その緩やかに扱かれる性器をぼんやりと眺めてしまう。
もう、思考力はほとんど、残ってはいない。


――エロいちんぽ…。

まだ幼く、剥きたてフレッシュなそのピンク色のちんぽは、
明るい車内で先走りを反射させてひくひくと快感にその身を震わす。


――あー…、指、きもちぃー…。

緩く握られ扱かれている性器は、電車の揺れに合わせてその先端が冷たいドアに擦れてくちゅくちゅと小さく音を立てる。
その後には、軟体動物が這ったようなぬるぬるとした痕跡が残る。
後ろに当たる熱の塊の動きさえ気持ちいい。

快感で力が抜けても、人の群れが倒れることさえ許さない。
それどころか昂ぶった快感は、周囲を囲む人の熱さえ欲を煽る要因にしかならない。


――ハァッ…ん、なんか、よく分かんな…。

ぼうっとした頭でなんとか考えようとしても、自分の前には窓しかなく、
それに映るのは蕩けきった顔した自分だけ。
途切れること無い快感が、速水を追いたて考える力を奪う。



ガタンッ。

もう快感に浸りきっていた速水に、一際大きな揺れが襲う。
満員でも人の波が同じ方向にずれるぐらいの電車の揺れに、速水ははっと目が覚める。


――ここ電車の中じゃないですか!

思わず体が強張る。

今の自分は、下半身を露出して、
誰かも知らない痴漢に腰を密着されて興奮している。

こんなの誰かに見られたら――……。

確実に退部。
下手したらサッカー部自体が試合に出場停止になってしまうかもしれない。

悪い未来予想図に、唇を噛み締める。

服を整えようとしても痴漢の腕が邪魔でスラックスが上がらない。
それどころか、抵抗を始めた速水をあざ笑うように、
より強く性器を扱く手に力を込める。


――あっ、あっ、…やだ、このままだと…っ。

どんなに嫌がっていても昂ぶった体は自分の意思に反してエレクトしていく。
激しくなった痴漢の手を喜ぶように、どくどくと脈打つ。


――やっ、やっ、…イクっ!やっ、あっ、…あー…っ、出っ!

ひくりと体全体を震わせた速水は、その瞬間を自分でもどうすることも出来ずに目をぎゅっと瞑る。


――ひゃ!?…あん、なんで…?

でも、その瞬間は来ることは無かった。
速水が身構えた瞬間、痴漢は速水の欲望の根元をぎゅうっと強く握る。

せき止められた快感が苦しくて堪らない。

イきたい、イきたい、駄目、でもイきたい。


頭の中がだんだんと欲望を開放することだけでいっぱいになっていく。


―う、ぁあ、…イキたい、ですよぉ…。

全身が堪えきれずふるふると震えてしまう。


「はぁっ」

後ろの男へ向かって吐息をはく。
その姿は無意識とはいえ、吐精を強請るものにしか見えない。

その瞬間、後ろの男が息だけで笑った気配がする。
そして襲ってくる激痛。


――え?

濁った頭で自分の性器を見ると、その根元には黒いゴムが戒めのように嵌められている。
そしてそのまま制服は元通りに戻されてしまう。

痴漢など無かったかのようないつもどおりの姿。
ただ、自分の欲望を堰き止めているだろう黒いゴムの存在だけが、
自分が知らない男にいいように触られた事を主張していた。



 

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