LOVE TRAIN



――…うわ、やだなぁ。

駅のホームに入ってきた電車を見て、速水は思わず眉を顰める。

テスト期間中で部活動が無い為、いつもより一時間以上遅い電車は、
いつものより数倍は混雑している。
普段は朝練で、まだ人が疎らな電車に乗っている速水には、
今ホームに滑り込んできた電車はもう既に満杯にしか見えない。

それでも朝の殺気立った人の流れは、そんな嫌悪感を無視して速水を電車へと押し込む。


――こ、こんなに混んでるもんだっけ?

激しい人の流れに押され、車両の中ごろに自分の意思とは関係なく体を押しやられた速水は激しく困惑してしまう。
久しぶりの電車はほんのりと恐怖を感じる程、自分の思い通りにならない。
人と人とが密着し合い、場所を移動するには断りを入れ退いてもらうしか無い。
気の弱い速水は勿論そんな事出来やしない。


――ちゃんと目的地で降りられるかなぁ…?

移動する事も、体の向きを変える事も、
腕の位置を変える事さえ迷惑になるこの状況で速水はこっそり溜息を吐く。


次の駅での激しい乗降者の流れに速水は逆らうことも出来ず、
車両の窓へと体を押し付けられてしまう。

そして暫くして、速水は自分の下肢に違和感を感じた。


――や、…な、何かお尻に当たってる。


最初太腿の半ばに当たっていたその感触は、電車が大きく揺れる度に徐々に上へと移動している気がする。


――偶然…だよね?制服だし、痴漢ってことはない、よね?


偶然そこに当たっていると信じていた手は、気付いた時にはもう、お尻としか思えない場所にあった。
そして碌な抵抗もしない内に、その手は痴漢としか思えない動きを始める。


――う、嘘。や、やだ。なんか動き出した。

速水が抵抗しないと判断したのか、その手は
円を描くようにお尻全体を撫で回す。


――ど、どうしよう。これ絶対痴漢だぁ。

どんどん大きくなる動きに反して、
速水は男なのに痴漢にあうという生まれて初めての経験に打ちのめされてどうしていいか分からない。
声を上げるなんて、恥ずかしくって出来るはずも無い。
少しでも手を避けようとしても、身動きが取れない。

自分の前にある窓にも、痴漢しているような人物は映らない。
周りの人は全てばらばらの方向を向いていて、誰が痴漢かなんて分からない。
触っているのが男か女かさえ分からず、窓に映っている人の中に居るのかさえ分からない。


――そ、そうだ。鞄でガードすれば…!

前で抱えるように持っていた肩がけ鞄を自分のお尻の所へと移動させる。
だが、良い案だと思われたその行動は、痴漢の行為を更にエスカレートさせただけだった。

お尻をガードしていた鞄をぐいっと退かした痴漢は、
これ以上鞄でガードされないように自分の体を速水に密着させてきた。


――ひゃあっ!

速水は思わず声が出そうになって、慌てて自分の口を押さえる。


それもそのはず。
速水のお尻には痴漢が体を密着させた事で、今度は手とは違ったものが当たる。


・・・それは服の上からでも分かるくらい
熱く、
硬い、
男の欲情した証。


男性の勃起した性器が、速水のお尻の割れ目に沿って、押し付けられていた……。



 

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