SIDE浜野2



ちゅーかさ、どう思う?コレ。
男同士でこんなんアリ?普通。


「は、浜野クン。黙って俺の傍から離れないで下さいよぉ」

「俺、浜野クンが居ないと駄目かもしれません…」

「は、浜野クぅン」


これ全部、俺が実際に速水から日常的に言われてる事なんだって!
なー?オドロキの事実だろ。
しかもさ、この台詞ってば全部うるうるお眼々プラス脇腹辺りの服をぎゅっとか掴んで言われちゃってるんだって。
なー?アリエナイ行動だろ。
マジやばいっしょ?
マジくるっしょ?
マジ我慢の限界っしょ?


うん、ちゅーか我慢の限界だ。


なんだろ、コレ。
俺の耐久テストでもやってんのかな?
理性が擦り切れるまで負荷かけて限界を試すってヤツ。
それかドッキリ。
俺が我慢出来なくなって狼さんに変身した瞬間に倉間あたりが「テッテレー」って大成功の看板持って出てくんの。

もし本当にドッキリだとしたら、今すぐ仕掛けたヤツは出てきてほしいよ。
もう充分みっともないぐらい動揺しただろ、俺。
今だってもう頭の後ろで組んだ手は汗でずるずるだ。
この頭の後ろで手を組むのだって、速水が不自然に汗を掻いた手を握ってくるのを防ぐ為のもんだ。
プラス頭の傍にある速水の顔を少しでも意識しないようにする為のガード。


速水の手は、俺の脇腹。
うん、これは最早定位置。
でも速水の体本体は、速水がどんだけビビッてるかで位置が決まるみたい。


今までで一番近かったのが、黒の騎士団が雷門にやってきた日。
初めての「脇腹ぎゅっ」だけでもびしって固まったっていうのに、固まってるうちに気付いたら腕に速水の手が絡まってた。
あん時は冗談抜きで脳みそふっとんだ。
ほんとマジマジ!
心臓バクバクしちゃって、速水の方が見れないの!
だってこんくらい!スマホぐらいの距離に速水の顔とかあんだぞ!?
顔そっちに向けたら速水の息とか絶対俺に掛かるだろ!?
もー、ちょー、ドッキドキ!!
俺、そんな夢の状況にどうしていいか分かんなくなっちゃって、頭ん中は爆発寸前。
取りあえずニヤつかないようにするだけでも死に物狂いなの!
でも速水の手がどんどん俺の腕にしがみ付くみたいな感じになっていって、腕に痛みを感じて漸く速水が真っ青な顔でカタカタ震えているのに気がついた。
そんな速水に気付いてさ、思ったんだ俺。


――ああ、これ以上速水を怖がらせちゃいけないな

って。

ただでさえこんなにも怖がってるってのに、ここで俺の態度が急変しちゃったら速水サッカー部辞めちゃうかもしんない。
男に告られるとか普通にトラウマもんなのに、今この状態の速水が耐えられる気がしない。

好きな子苦しめるとか、そんなの男として最低っしょ。


だから俺は好きな子が密着してきても平気な顔しなきゃならない。
ドキドキしてるのなんて微塵も出しちゃいけない。
どれだけドキドキしてても、それでころかムラムラしちゃってても、
頼れる親友って顔だけして、速水の気持ちが少しでも軽くなるように支えてやりたい。

それがどんなに難しいことでも。


でもさ、速水はそんな俺の事情なんて知ってる訳ないから、ほんとお構いなし。
俺の脇腹の裾を掴む腕が伸びてる時もあれば、俺に隠れてるみたいにすっごい近い時もある。
俺の見た感じだと、なんか徐々に近づいてきてる感じだ。

自由なサッカーを声高に叫ぶ松風の存在が速水は怖いんだと思う。
部内が混乱してるのが不安なんだと思う。

速水は変化や新しい事を極端に不安がるから。
ほーんと、やっぱ俺は我慢するしかない。


俺のこんな想いなんて速水を不安がらせるだけだ。


――だからさ、本当これがドッキリだとしたら止めるのは今だろ、今!

「は、浜野クン…。俺達これからどうなるんでしょぉ…?
監督が辞めさせられちゃって、雷門サッカー部潰れちゃったりしませんよね?
これからも浜野クンと一緒に居られますよね?」

フィフスの勝敗支持に逆らって久遠監督が責任を取らされる事になって、今日の練習は結局身が入らないまま終わってしまった。
特に速水は真っ青になって蹲ってしまって最初は練習どころじゃなかった。
帰り道でもずっと俺の服を離しそうにない。

それどころかいつもは別れる交差点になっても離す気配さえない。
仕方ないんで俺は速水を家まで送ってく事にした。

さっきの台詞は家まで送り届けて速水んちの玄関先で言われたもの。


速水は家に着くとカバンから鍵を取り出した。
家に誰も居ないのか、どうみても無理だろっていうぶるぶる震えた手つきで開錠しようとして案の定鍵を落とした。
今俺は速水が落とした鍵を拾おうとしてしゃがんだ状態だ。
速水の言葉が俺と離れるのが寂しいって言ってるように聞こえて、速水はビビってるってのに顔がにやける。…下向いてて良かった。

俺は、んってニヤけた顔を引き締めてから少しでも安心させられるように、明るい表情で立ち上がる。
んで拾った鍵を速水の震える手に乗せてやる。

「大丈夫だって!
どんな事があったって、俺は速水と一緒にサッカーするつもりだしー」

ニコニコ笑って、鍵を渡して今日はオシマイって思ってた。
帰って速水の手に触れた手でオナって今日も侘しい気持ちで一日を終えるんだって。

でも速水は鍵を乗せるためだけに触れた俺の手をぎゅっと握った。


――ああ!早く出て来いって!!
速水んちの中からでもそこの通りからでもいいから大成功の看板もって「ッテッテレー」って。


「は、浜野くん、お願いです。
俺、不安で不安で…。ひ、一人にしないで下さい…」

速水の口から悩ましげなため息と共に、甘くそれでいて猛毒を孕んだ誘いの言葉が吐き出される。
そして目の前には誰も居ない速水の家。


――おい!もういいだろ!?
ちゅーか、もうこれ以上みっともない姿見せさせるなよ、速水が怖がるじゃんか!?


俺は速水の手と俺の手に挟まれた鍵を、もう一度握りしめる。
速水から視線が離せずに、見もしないで俺の手はがちゃがちゃと他人の家の鍵を勝手に開けている。


――倉間でも、この際剣城だって構わない。
黒の騎士団さえも壮大なドッキリだったとしてもキレたりなんかしないから、だから…っ!


……誰か俺を止めてくれっ!!



鍵ががちゃりと音を立てて開いていく。
その鍵は俺が一生懸命封じ込めていた想いまでこじ開けてしまったみたいだ。

誰の気配もない、薄暗い速水んちの玄関。

俺はすぐまた繋いだ速水の手を引っ張って入った。
ぐいって急に引っ張ったせいで速水の体勢が崩れて俺の方に倒れてくる。


勿論、俺は速水を抱きとめた。
それは偶々そうなっただけに見えるけど、家に入った瞬間から、そうしようと決めていた。

もしこれが本当にドッキリだったとしたら、大成功もいいところだ。
大成功過ぎてここから先は誰にも見せられない。完璧に放送事故になってしまう。


抱き締めた速水は、すごく細くて背は俺よりも高いのにすっぽりと俺の胸に収まってしまう。

何度想像したか分からない、その細い腰に今俺の手が廻ってる。


……我慢なんて出来るはずが無かった。


 

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