SIDE浜野1



「おっはよー、はっやみぃー」

「おっ、おはようございます!…うう、今日も元気ですね」

見慣れた後ろ姿、し慣れた挨拶。

今日も高い背を猫背にして赤茶色のツインテールを揺らして歩く後ろ姿目掛けて、俺は走っていってぽんっと肩を叩く。
前に回って顔を見ると、急に肩を叩かれたせいかびくっと強張らせた体を俺の顔をみて安心したように弛緩させる。


……その顔が見たくて、いつも同じ挨拶をしているのをコイツは知らない。



「あー、こういう晴れた日はサッカーすんのめっちゃ気持ちいいよねー。
早く放課後になんないかなー」

「は、浜野くんはこんなサッカーでも晴れてれば楽しいんですか…?
これからどうなるんだろうって悩んだりとかしないんですか…?」

速水がバッグを抱えて訊いてくる。
抱えた手はよく見ると小さく震えてる。
細く、華奢な指。


……こんなに弱く、か細いのにどうしてコイツは男なんだろう。



「んー、悩んだりかぁ…。
俺、そーいうのあんましないかも!」

「まったく、羨ましいですよ。
俺なんて悩みまくりで、最近寝付きが悪いんですからぁ。
俺も浜野くんみたいになりたいですよぉ」

速水が眉の下がった顔ではぁーっと溜息を吐く。
そんなに羨ましいかな、俺の事。
一個デッカイ悩み事があるせいで、それ以外の事は全然気になんないってだけなのに。
その悩みも誰にも言った事ないから、俺ってば皆からは悩みがない奴ってことになってる。


……こんなに苦しくて胸が痛いのに、俺はそれを誰にも相談は出来ない。



「俺みたいな速水なんて想像出来ないってー。
ちゅーか、速水は速水だからいいんじゃーん」

「もう、浜野くんは他人事だと思って。
俺は真剣に悩んでるんですからね」

俺も真剣だよ。
その言葉は笑顔に隠して笑って過ごす。


速水が俺みたいじゃなく速水だから、俺は…。


速水が速水だからいいってのも本音だけど、
俺は時折速水が速水じゃなかったらいいのにって考えてしまう。

そしたらたぶん…。
こんな思いはしなくてすんだ。


「まぁ、まぁ。
俺ならいつでも相談に乗るからさー。
あ、それよか気晴らしにまた釣堀でも行こっか。ねぇ?速水ー」

横を歩く速水をオーバーな身振りで覗き込むと、
「仕方ないですね」って顔で眉の下がったまま微かな笑みを浮かべる。

俺が一発でやられてしまった笑顔。


――俺は親友のコイツに苦しいぐらい恋をしていた。




 

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