番外編 体のおっきな牛さんと神出鬼没な幼馴染



「えっとですねー、そろそろアレお願いしたいんですけど…。いいっすか?」

浜野くんが掃除の手を休め、まるで世間話のように切り出した一言に牛舎はぴきりと空気が凍ります。
三匹の牛さんにとってはまさに青天の霹靂。
突然の出来事でした。


「アレか…。
まあ、そろそろだろうな。
相手は決まってるのか?」

でも流石は三国さん。
自身も相当動揺しているというのに、冷静さを保って浜野クンに聞き返します。
能天気浜野クンはそんな三国さんの気持ちに気づいているやら。
デリケートな話題だというのに、持っていたホースをぐるぐると片付けながら話し出します。

「一応、分家の雷門二軍ファームんとこから来てもらう予定なんスけど。
あっ、好きな相手とかいたら、そっち優先するんで」

どうですか?と、浜野クンはそこで三年牛'sへ向かって首を傾げました。
三年牛'sは顔を見合わせます。


種付けして欲しい相手を自己申告しろ、と浜野クンは言っているのでした。





「おい、良かったのか?お前らは」

浜野クンが帰った後、三国さんが他の二匹に話し掛けます。
牛舎でガールズトークが始まるみたいです。
どれだけ男にしか見えなくとも三匹は雌だからガールズトークなんです。いいんです!

「仕方ないド。牛乳が出ない雌牛なんて役に立たないって分かってるド」

「そうだよな、そういう時期なんだよな」

天城さんの言葉に車田さんが自身のおっぱいをたゆんたゆんさせながら呟きます。

「その事じゃなくだなぁ…。
相手の事だ、相手の。
俺は特に想い人も居ないし、浜野にああ言ったがお前達もOKして良かったのか?」

重々自分の立場を承知している三国さんは、もう自分が種付けされる事は仕方無いと思ってるみたいですね。
しかも、三国さんは浜野クンが見つけてきたお見合い相手で承諾したみたいです。
…好きな人、居ないんですね。三国さん。


「ああ、二軍のとこの奴らなら悪い相手じゃないしな。
実はフィフスから派遣されて来るヤツが相手だったらどうしようかと思ってたんだ」

なんと、この世界にもフィフスセクターは存在するみたいです。
牛乳生産を管理している組織、フィフスセクターですね。
うん、こう書くと全然悪の組織では無さそうです。
寧ろ良心的なJA的存在。


「そうだな、アイツらなら少し頼りないが気心も知れてるしな」

三国さんと車田さんは雷門二軍メンバーの誰かが相手でも異存はないようです。
でも、あれあれ?
さっきから黙ったまんまの天城さんは大丈夫でしょうか。

「なあ、アイツらの中だったらお前は誰がいい?」

「俺か?俺は特に誰って言うのは…。
まあ、優しかったらそれで…」

おお、三国さんと車田さんはガールズトークらしい話題になってきましたよ。
たとえお見合いでも初めての相手は気になっちゃうよね。

「三国は男に優しさを求めるタイプかー。
俺は熱いヤツの方が好みだがな!
なあ!天城は誰がいいんだ?」

車田さんの言葉に、それまで塞ぎこむように考え事をしていた天城さんがはっと顔を上げます。

「ド!?
…ああ、俺も誰でもいいド」

う〜ん、やっぱり天城さんは大丈夫じゃないみたいですね。
その天城さんの態度に三国さんも車田さんも心配そうに天城さんの方にやってきます。


「おい、嫌なら今のうちに浜野に言った方がいいぞ」

「そうだぞ!好きな相手が居るなら言えと浜野も言ってただろうが!!」

二匹の叱咤激励にも天城さんは浮かない顔のままです。
力なく首を振ると、寂しそうな顔で言いました。

「いいんだド。
別に好きな相手が居るってことじゃないド。
ただちょっと…」

そう言って言葉を濁す天城さんに車田さんは励ますように肩を組みます。

「そうか!なあ天城、俺達三匹、大人になるのも一緒だ!!
なーに怖いことなどあるもんか!!」

「そうだな」

三国さんも包容力のある表情で頷きます。
二匹は天城さんの落ち込みを「大人の階段昇っちゃう事への恐怖」と思ったようです。
平気な顔をしてても二匹も同じような気持ちを抱えてるんでしょうね。

でも、本当に天城さんもそうなんでしょうか?

天城さんは他の二匹に聞こえないよう、小さな小さな声で呟きます。


「アイツの名前なんて言える訳ないド。
…嫌われてる俺なんて、どうせ断られるに決まってるド」



 

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