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「赤茶色の髪にもこもこ毛皮のウサギ…。
もしかして君、つるうさかな?」

想像以上に魅力的な牧羊犬神童サンに何も言えなくなってしまったうさつるまさに、神童サンは親しげに訊いてきます。
でもうさつるまさは神童サンの言葉でもっと胸が詰まって何も言えなくなってしまいました。

――い、今『つるうさ』って言った。
……ご主人様だけの呼び方だったのに。普通に『つるうさ』って呼ばれちゃいました…。

なんだかご主人様が神童サンにはなんでも許可しているみたいでうさつるまさはしょんぼりしてしまいます。


「初めまして。君の事は浜野からよく聞いているよ。
今日はどうしたのかな?君、一人?浜野は一緒じゃないのか?」

――俺には神童サンの事、今日初めて教えてくれたのに、神童サンとは俺についてよく話してるんですね…。

神童サンは友好的に話しかけているのに、ネガティブ一直線のうさつるまさは些細な挨拶さえ気に病みます。
めちゃくちゃ面倒くさい性格です。


「ご主人様は風邪を引いてしまいまして…」

もごもごと小さな声で答えるうさつるまさに神童サンは嫌な顔一つしないでテキパキと仕事の予定を立て始めました。

「そうか、それで…。
分かった、ここは霧野に任せて自分も農場の仕事を手伝おう」

そう言うと、奥の方へと大きな声で誰かを呼びました。

「なんだ?神童」

ぞろぞろと羊を引き連れてその霧野と呼ばれたもう一匹の牧羊犬は姿を現しました。
その姿にうさつるまさは息を飲みます。


――こ、こんな綺麗な犬見たことないですよぉ!!

その鮮やかなピンクの髪をした牧羊犬は神々しい程の美形でした。
長い睫も大きく輝いた瞳も薄く形の良い口も文句のつけようが無い程綺麗で美しかったのです。


「浜野が風邪らしい。ここはお前に任せていいか?」

「ああ、勿論」

神童サンと霧野クンが寄り添って話し合ってる姿なんか、まるで一枚の絵画みたいです。

――うう…、ご主人様が本当は面食いだったなんて…!
この二人に比べたら俺なんて…っ。


うさつるまさが農場きっての美形二人に凹んでいると、気づかない内にうさつるまさの周りを羊が取り囲んでいました。
初めて見る顔に、羊達は興味津々です。


「あのっ、貴方は誰ですか?俺、天馬って言います!」

「僕は信助ー!会うの初めてですよね?」

「俺は輝と言います!!貴方もここの方ですか?」

「あのー、浜野サンどうかしたんですか?
今日神童サンは来ないんですよね。…ラッキー、霧野サン口説くチャンスじゃん

「…宜しく」

明るく爽やかな三匹と、裏表のありそうな一匹と、なんでお前も羊なんだよと言わざるを得ない一匹にうさつるまさは質問攻めにあってしまいます。
その明るさにうさつるまさはひくりと顔が引き攣ります。


――うあぁ、この明るさは俺には無いものですよぉ…。
陽気なご主人様はやっぱりこういう能天気なのが好きなんですね…。


一年羊軍団に圧倒されて、うさつるまさがあうあうと何も言えないでいると、
見かねた神童サンと霧野クンが苦笑いで止めてくれました。

「こらこら、つるうさが困ってるじゃないか」

「お前達、今日は霧野の言う事をよく聞いて大人しくしているんだぞ。
間違ってもそよかぜステップで脱走するんじゃないぞ!」

「「「「はーい」」」」

「…うす」

一年羊達は良いお返事と共に霧野クンの号令の下、メェメェと牧場へと駆け出します。
それを満足げに見送ると、神童サンはうさつるまさへと向き直ります。


「じゃあ、そろそろ行くか。
先輩方もお腹が空いたことだろうし」

さらりと告げられた言葉にうさつるまさはまたも愕然となります。


――せ、先輩方って…。
もう7匹も会ったのにまだ愛人がいるなんて…。
ご主人様が性欲魔人だったなんて酷いです…。


焦点の定まらない眼で遠くを見ると、冬の澄んだ空気で山の麓の大きな木がはっきりと見えます。


――そうだ…。この前倉間クンにも『倉間もうちの猫っしょ』って言っていた。
喧嘩するほど仲がいいって言うし、倉間クンもきっと既にご主人様のお手つきなんだ…っ。
何にも知らずにご主人様の愛人と仲良くしていたなんて俺は救いようの無い大馬鹿者ですよぉ!


残念、倉間クン。
倉間クンのあずかり知らないところで倉間クンの恋の成就は更に遠のいたようです。


 

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