第三話 風邪引きご主人と愉快な仲間達



「ゴホッゴホッ。
う〜っ、なんかクラクラする〜」

「当たり前です。
裸でふらふらしてたら誰だって風邪引きます!
まったく熱があるんだから寝てないと駄目ですよぉ」

うさつるまさは咳き込む浜野クンの背中を押してベッドまで押し込めます。

昨晩いつものようにいちゃいちゃというには少し性的な行為をしている時に浜野クンはいきなり飛び起きたのです。
「そー言えばつるうさにプレゼントがあったんだ!
この前可愛いリボン貰ってさー。
裸のつるうさに着けたらめっちゃエッチいと思ってたんだよねー」
とベッドにうさつるまさを残したまま、ごそごそと戸棚を探し始めたのです。
エロテンションの上がった浜野クンはただの馬鹿でした。
冬だというのに真っ裸で探し始め、うさつるまさが止めるのも聞かず、大雑把な性格そのままの戸棚からかなりの時間を掛けて目的のものを探し出してきたのです。
風邪を引くのも当たり前です。
まあ念願のリボンプレイを満喫できたのだから浜野クンも本望でしょう。

ですが農場の仕事は風邪を引いたからといって休んでいいってものではありませんでした。


「あ〜っ、苗に水やんなきゃいけないのにーっ!!
それに今晩は冷えそうだから色々準備しなきゃいけないのにーっ!!」

鼻水を垂らし声を嗄らしながらも、浜野クンは風邪を引いてるとは思えない程元気に喚きます。

「そんな事言ったって寝てなきゃ治らないじゃないですかぁ」

「えーっ、大丈夫なのになぁー」

薬や濡れタオルといった看病グッズを抱えてきたうさつるまさは浜野クンに布団を掛けなおします。


「あの…っ、だから俺が代わりにやりたいんですけど…。
えっと、えっと、…駄目、ですか?」

「えーっ!?つるうさがやってくれんのー?」

「はっ、…はいっ!」

「ちゅーか大丈夫かな?」

「あのっ、あのっ、…が、頑張ります!」

精一杯表情を引き締めて頷いたうさつるまさに浜野クンはつい笑ってしまいます。
ネガティブなつるうさが自分の為に頑張ろうとしているのが浜野クンには嬉しいみたいです。

「じゃー、つるうさに任せた!」

「はっ…はい!」

浜野クンがにっこり笑ってそう言うとうさつるまさも元気に答えます。
仕事を任されたうさつるまさも嬉しそうです。

「つるうさにやって欲しいのはー…」

「はいっ」

布団を引き上げ、大人しく横になりながら浜野クンが仕事の説明を始めます。
うさつるまさはタオルを洗面器で濡らしてキツク絞りながらニコニコと説明に相槌を打ちます。

「まず神童のとこ行って、俺がダウンしてるって相談して。
アイツなら色々知ってっからさぁ、一緒に仕事してくれるはずー」

「え…」

――神童サンって、誰?なんだか…すごくご主人様に信頼されてる…。

見知らぬ名前にうさつるまさは思わず浜野クンのオデコに乗せようとしていた濡れタオルを落としてしまいました。

「う〜、目に入ったー!」

「あっ、ごめんなさい」

濡れタオルは丁度浜野クンの眼を隠すように落ちたので、浜野クンはうさつるまさがショックを受けているのに気づいていません。
濡れタオルをオデコに移動してもらうと浜野クンは説明を続けます。


「神童は今の時間だったら羊小屋んとこいるはず。
アレ?つるうさって神童に会った事あったっけ?」

「無い…です」

うさつるまさはドキドキしながら答えます。

――神童サンってどんな方だろう?ご主人様とはどんな関係なんだろう?も、もしかして…。

頭の中はまだ見ぬ神童サンの事でいっぱいです。
でも浜野クンはそんなうさつるまさの浮かぬ顔をただの人見知りと判断したようです。


「神童はねー、こうふわっふわの髪に整った顔してるから会えばすぐ分かるよ。
真面目なイイ奴だから心配しなくても大丈夫だよ」

ぜんっぜん怖くないってー、と浜野クンがうさつるまさを安心させようしているのも、
今のうさつるまさの耳には入っていません。

『整った顔』『イイ奴』
それらの言葉がうさつるまさを堪らなく不安にさせます。


「はい…。いってきます…」

うさつるまさは力無く呟き、ふらふらと家を出て行きます。
羊小屋に着いた時、うさつるまさはすぐ「この方が神童サンだ」と分かりました。

それぐらい神童サンは華のある魅力的な方でした。


「あ、あのぉ〜…っ、し、神童サンですか?」

緩いウェーブのかかった髪。
知的な瞳に繊細そうな顔立ち。
そして艶やかな毛並み。

「ああ、そうだけど。
……君は?」

気品溢れるその神童サンの態度にうさつるまさは気圧されて一歩後ずさります。


――や、やっぱりこの方が神童サン。
牧羊犬の神童サンだ…。
……俺、こんな素敵な方とご主人様を競いあわなきゃいけないなんて無理ですよぉ!


そうです、自分を浜野クンのペットだと思っているうさつるまさは思い込んでしまったのです。

この農場に居るのは皆、浜野クンの愛人だと。
この浜野ファームは仮の姿で、本当は浜野ハーレムであると。


 

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