第二話 食いしん坊ウサギの困った性質*



うさつるまさを訪れたというのに、今日は倉間クンは物音を立てる事はありませんでした。
それどころか、柵を飛び越えて中に入っていきます。
うさつるまさの姿が見えないから心配したのです。

「おいっ、どこだ?」

キョロキョロと辺りを見渡してもどこにもうさつるまさの姿はありません。
柵にも小さな小屋にもどこにも隠れるような場所なんて無いのです。

こんなことは倉間クンがここに訪れるようになってから初めての事でした。





ドンドンッ

「おいっ!居ないのか!?テメッ、おいっ浜野っ!!」

倉間クンは浜野クンが住んでいる母屋のドアを思いっきり叩きます。
小心者のうさつるまさが一人で自発的に向かう場所といったら浜野クンの居るここしかないのです。

何回叩いても浜野クンは一向に出てくる気配がありません。
倉間クンは忌々しそうに舌打ちをすると、ドアを開けようとノブを捻ります。
ですが鍵が掛かっているようで開きません。

「っざけんな!」

倉間クンがドアを蹴り飛ばそうとしたその時です。
家の裏手の方から倉間クンを呼ぶ声が小さく聞こえました。

「ッ!!」

倉間クンは猫らしい敏捷性で声の方へと向かいます。
すると、奥の部屋の窓を浜野クンが中から叩いているではありませんか。


「助かったよ、倉間!いいところに来てくれた」

うさつるまさが居なくなったというのに、暢気そうに笑っている浜野クンに倉間クンはカチンときます。

「何がいいところだっ!
アイツが居ねぇ!お前どこ行ったか知らないか!?」

倉間クンは怒って窓にもっと近づこうとしました。
ですが、浜野クンは何故か窓を開ける事無く、倉間クンを制止させるように手を開いてみせました。

「つるうさなら今調子崩して横になってんだ。
ちゅーか、俺その世話で手が離せないから、倉間、俺の代わりに苗の様子見てきてくんない?」

「はぁっ!?」

倉間クンは不機嫌そうに眉を寄せます。

「それ、お前の仕事だろっ!?
俺がアイツの看病してっから、お前が仕事してこいよ」

「悪りぃ、それ無理なんだ。
ちょっとばかし面倒でああなったつるうさの世話は俺にしか無理なんだって」

倉間クンの尤もな提案は、あっさりと浜野クンに退けられてしまいます。
その上浜野クンは倉間クンを拝むみたいに片手を自分の顔の前に持ってきました。


「ほんっと、申し訳ないんだけど頼まれてくんね?
明後日にはお前にもつるうさ会わせられると思うし、それまで頼むよ。なっ?」

倉間クンは目つきの悪い顔でじっと浜野クンの顔を睨みます。
納得は出来ないけれど、いっつもマイペースな浜野クンの懇願はそれぐらい珍しかったのです。
不機嫌そうに浜野クンを睨んでいた倉間クンは、暫くしてぷいっと顔を逸らしました。


「…チッ。明後日だな。
お前もちゃんと看病しないと許さないからな」

倉間クンはそう言うと、だっと苗のある納屋の方へと走り出します。
ツンデレ倉間クンらしい、了承の仕方です。


浜野クンは走り去っていく倉間クンの後ろ姿にほっと息を吐き出しました。

「ふぅーっ、仕事やってくれるみたいで良かった。
それに倉間、全然気づかなかったみたいだし」

誰に言うでもなく呟くと、窓から外を見る為に伸ばしていた上半身の力を抜きました。
腰は固定されている為、倉間クンと窓越しに話していた体勢は相当無理していたのです。


「ごめんね、待たせて。
もう我慢しなくていいからね」

そして今度ははっきりと相手に向かって告げられる言葉。
それは調子を崩したうさつるまさにも理解出来るように優しくゆっくりとしたものでした。
浜野クンはその言葉と共に、今までうさつるまさの口を塞いでいたもう片方の自分の手を退かします。

その途端漏れる、胸を引き裂くような切なげで悲痛な泣き声。


「ご主人様ぁ…っ!
ぃやぁっ!よそ見なんて、しないでぇ…っ。
お、俺っ、…寂しくって、死んじゃいますよぉ…っ!!」

うさつるまさは浜野クンのベッドに横になったまま、「浜野クンの顔が遠い」と泣きながら浜野クンに手を伸ばします。
その腰は、もっと浜野クンを感じる為に淫らに揺れています。
うさつるまさの中にある浜野クンが出した白い体液がうさつるまさが動く度にぐちぐちと濁った音を立てます。


うさつるまさが浜野クンのベッドで横になっている理由。
それは、年に一度決まってこの時期に訪れるものでした。


そう、うさつるまさは今、繁殖期に入ろうとしているのです。



 

prev next




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -