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浜野クンはトラクターからよっと軽快に飛び降り、大きな籠を抱えてやってきます。


「なーんだ倉間も来てたのか。
ちゅーか、何もめてたん?」

どさっと籠を地面に降ろしながら、浜野クンが訊ねます。
その途端、うさつるまさは急に狼狽し始めます。


「お、俺、受け取ってません!
倉間クンから何も貰ってないですから!」

大慌ててでうさつるまさは両手を振って否定します。
ですが、残念!その手にはさっき無理やり押し付けられた人参があります。

「……あ」

気づいて真っ青になるうさつるまさ。
ですが浜野クンはにこやかにうさつるまさの頭を撫でます。

「おっ、倉間から人参貰ったのか。良かったじゃん!」

「……怒らないんですかぁ?」

うさつるまさは恐る恐る訊ねます。

「えー、なんでー?怒る訳ないじゃん」

「だって、ご主人様前に『他の人から食べ物貰っちゃ駄目』って…」

「あー、そういえば言ったなぁ、そんな事。
えー?それは知らない人って意味だし。
つるうさは食いしん坊だから食べ物に釣られて知らない人に付いていかないようにって意味っしょ?
倉間は知らない人じゃないから怒んないよ、別に。
ちゅーか倉間もウチの猫じゃん」

「おいっ!いつ俺がお前んちの猫になったんだっ!?」

それまで黙っていた倉間クンが話の展開に思わずツッコミを入れます。
二人の雰囲気に呑まれてすっかり空気になっていたのです。


「だって倉間が寝床にしてる木、アレ、ウチの木だもん」

返ってきた浜野クンの答えに、倉間クンはぎょっとします。
何故なら倉間クンが寝床にしている木はここから歩いて5分は掛かるのです。

「嘘だろ!?あの木だぞ?」

倉間クンは遠くに見える大きな木を指差します。
でも、浜野クンはすぐさま頷いたのです。

「そ!ウチの木。あの山までがウチの敷地だし」

そう言って浜野クンは更に遠くの山を指差したのです。


浜野→広大な農場主(うさつるまさの呼び方『つるうさ』勿論浜野限定ニックネーム)
倉間→そのペット(うさつるまさの呼び方『おい』勿論名前はまだ呼べた事はない)


倉間クンの完敗です。

倉間クンは口あんぐりです。


「ご主人様…。…ご主人様ぁっ!」

一向に怒る様子のない浜野クンに安心したのか、うさつるまさはうるうると涙を浮かべて浜野クンの腰に抱きつきます。
怒られると思ったのに怒られなかったばかりか、自分を心配しての注意だったと分かったからです。


浜野クンはそんなうさつるまさの背を優しく撫でます。
そして笑って言いました。

「ほら、お腹すいてんでしょ?早く食べなって。
倉間だけじゃなく俺も人参持ってきたし」

先程地面に置いた籠をずいっとうさつるまさの方へと押します。
大きな籠には山盛りの人参が入っています。
そこに浜野クンは倉間クンの人参も上に乗せます。


「はい、今日のお昼ご飯」

「ええっ!?これ、一回分の食事なのかよ!?」

うさつるまさの食事の単位は本ではなくsでした。
倉間クンはうさつるまさの食欲を相当過小評価しすぎていたのです。

しかも上に乗った倉間クンの人参の貧相なこと。


浜野→採れたて!無農薬有機野菜(葉っぱ付き10s)
倉間→拾いたて!萎びた野菜(変なシミ付き1本)


倉間クンの完敗です。
というか勝負にもなっていません。

(クッ、今、なんか凄まじい敗北感が…っ)

倉間クンが二度目の完敗に片膝を地面につくのは当然です。


「ありがとうございます。ご主人様ぁ」

敗者など目もくれずにうさつるまさは浜野クンに涙を拭いながら笑います。

「いいって、いいって!
ほらそれよりいつもの早くやって」

「えっ!?きょ、今日もやるんですかぁ?」

うさつるまさはびっくりして聞き返します。
そしてちらりと未だ立ち上がれない倉間クンを見ました。

(チッ、なんだってんだ?)

倉間クンも自分をさっきまで完全スルーだったうさつるまさの変わりように訝しげです。


「当たり前っしょー?
いいじゃん、べっつに気にすること無いじゃん」

「わ、わかり…まし、たぁ…」

手を頭の後ろで組んで全く気にする様子の無い浜野クンに、
うさつるまさは未だ迷うように口に拳を当てているものの、真っ赤な顔で結局は頷きます。

「じゃ、じゃあ…」

倉間クンの視線を避けるように顔を俯かせて、うさつるまさは口を開きます。


「いつもありがとうございます」

そう言うとチュッと可愛らしい音を立てて浜野クンのほっぺに顔を寄せます。
倉間クンがピシッと固まります。


「あー、これが無いと今日も働いたぁ〜って実感湧かなくってさー」

「そ、そうですかぁ?」

「そーそー、俺が頑張ってんのはつるうさの為だもん。
つるうさはそんな俺を癒すのがお仕事っしょ?」

「え、ええっ!?そんなの今、知りましたぁ」

「つるうさのお仕事は他にも、俺にナデナデされる事でしょー。
それに俺の抱き枕になる事でしょー。
あっ、忘れちゃいけないのが俺の腕の中であんあん啼く事ー!」

「そ、そんなにいっぱい…!お、俺ちゃんとお勤め果たせてますかぁ?」

「おー、ばっちり!お仕事はいっつも最高の出来!」

そう言うと浜野クンはうさつるまさをキュッと抱きしめ、ふるふると揺れているしっぽを撫でたのでした。


「ぁ、だめで、す…ご主人様ぁ…っ」

「って!人間×兎ってそんなんアリかあああ!?」

うさつるまさの嬌声を掻き消すように倉間クンの心の叫びが辺りに木霊したとかしなかったとか。
何はともあれ、そもそも倉間クンは浜野クンと勝負にもなっていなかったようです。

だってほらうさつるまさは優しいご主人様である浜野クンに夢中なのです。


「…あっ!こっ、こんな明るいうちから…、あ、駄目、ああっ…!」

「おいいいい!俺が居るのはいいのかよおおお!?」


 第一話 完

 

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