happy☆birthday



「なあ、今日の豪炎寺なんか焦ってない?」

練習試合のハーフタイム中、半田はこっそりと汗を拭いている染岡に話しかける。

今日の豪炎寺は決定的瞬間を二回も外した。
そのうえ、らしくもなく外した後、悔しさをむき出しにして地面を蹴っていた。
限りなくおかしい。


「あー、お前もそう思ったか?
さっき俺にボールばんばん回せって言ってきてよ。
いくら同点だからってアイツそんな事人に頼むようなキャラじゃねぇだろ」

染岡も気になっていたのか半田の言葉に汗を拭く手を止めて、口をへの字にしている。

「なんかあったのかな?」

「さあな。アイツなんにも言わねぇからな」

染岡が悔しそうに呟く。


いつだって豪炎寺は何も言わない。
誰にも相談しないで、一人で決めて、勝手にどこかへ行ってしまう。

今も豪炎寺は皆から離れて、未だ試合中の顔のまま無人のピッチを睨んでいる。


――何か言ってくれてもいいのに・・・。
俺じゃ頼りないのかな?

半田は人を拒んでいるかのような豪炎寺の厳しい横顔を見て思う。


例えば、これが円堂なら豪炎寺の気持ちだけじゃなくチーム全体の雰囲気さえ変えるような事が言える。
鬼道なら、焦る豪炎寺を上手く抑えて導くようなゲームメイクが出来る。
染岡だって悔しそうにしてるけど、その突破力で敵DFを引き付けたりアシストしたり豪炎寺の負担を軽く出来るからこそ、豪炎寺も頼ってきてる。

半田には特筆すべきものが何も無い。
中途半端で、今日だって偶々練習試合だから試合に出れただけの半レギュラー落ちの存在だ。
足を引っ張らないように頑張る事しか出来ない。


・・・でも!

半田はぎゅうっと握り拳を作る。
でも、今日だけは俺が豪炎寺の助けになりたい。
困ってる時ぐらい俺も豪炎寺を支える側になれるって証明したい。

後半を告げるホイッスルが鳴った時、半田は密かに決意していた。

中途半端な自分がそれでも一番得意なのはパスだ。
ボールが来たら、自分に出来る最高のパスで豪炎寺に繋げる、と。


そして後半も0−0のまま半ばを過ぎ、チーム全体に焦りが見えてきた頃、ノーマークの半田にボールが回ってくる。
前を見ると豪炎寺はDF二人に激しいマークに合っている。


――俺が出したいのは、「最高のパス」だ!

半田はそのままゴールに向かって走り出す。
横からのスライディングは鬼道の声でなんとか避ける事が出来た。
でも長いドリブルに敵は次々と半田に向かってくる。
ちらりと豪炎寺を見ると、へばり付いているDFが一人に減っている。
半田が視線を戻すと、自分の前にはさっきまで豪炎寺に付いていたDFが居る。
半田は最後の力を振り絞る。


「ジグザグスパークッ!」

温存していた取って置きの必殺技で敵を抜き去り、豪炎寺を見る。

・・・一瞬でも確かに目が合う。

「豪炎寺っ!!」

高くパスを出せば、豪炎寺が華麗に空を舞う。
炎を纏い、鋭いシュートがゴールに向かう。

半田の想いを乗せたボールは綺麗に敵のゴールポストを揺らしたのだった。


「豪炎寺ーっ!!」

半田が勢い良く駆けてきてシュートを決めた豪炎寺に抱きつく。

「やったあああー!!」

すごい勢いに豪炎寺も受け止めきれず、一緒にくるりと回ってしまう。
でも豪炎寺はそんな半田に柔らかく笑う。

「半田のお陰だ」


そこへ遅れて染岡達も走ってくる。
自分も豪炎寺に飛び付こうとした瞬間、豪炎寺の鋭い眼光が突き刺さり染岡の動きが止まる。
ライオンに睨まれたウサギ状態の染岡に鬼道が無言で首を振る。
死にたくなかったら今は止めとけと、その態度が物語っている。


そんな周囲に全く気付いていない半田はニコニコと豪炎寺を見つめる。

「やっぱ豪炎寺だよなぁ!
俺が頑張ってDF引き付ければ、豪炎寺なら絶対決めてくれると思ったんだ!」

「ああ、点が入ったのは全部半田のお陰だ。
お前が頑張って決まったシュートを、お前の誕生日プレゼントには出来ないな」

「え…?」

「今日の試合で俺が決めたシュートをお前の誕生日プレゼントにしようと思っていたんだ。
この前久しぶりに試合に出るからこの試合は絶対勝ちたいと言っていただろ」

「嘘…、そんな話覚えててくれたんだ…!
じゃあもしかして今日お前が焦ってたのって…?」

「ああ、少し勝ちを急ぎすぎていた。
どうしてもお前の為に俺の手で勝ちを決めたかったからな」

「豪炎寺…」

「半田…」
 ・ 
 ・
 ・

「あー、どうするアレ?」

マックスがうんざり顔で鬼道に話掛ける。

「何かしらの行為が始まる前に回収した方がいいだろうな」

腕を組み険しい表情で吐かれた言葉に風丸がぎょっとする。

「なっ、何かしらの行為って何が始まるんだっ!?」

「何ってナニでしょ」

意地悪そうなマックスの答えに鬼道からツッコミが炸裂する。

「そこまでする程盛ってはいないだろう。
そんな事になったら公然猥褻で逮捕されるだろうからな」

「公然猥褻っ!?」

風丸の更なる叫びが木霊する。
モテるわりに案外純情な風丸は顔を真っ赤にしている。
その時、呆然としていた染岡が急に雄たけびを上げながら頭をガシガシと掻き毟る。
そして雄たけびを上げながら一年集団の中で暴れだす。

「栗松ぁ!とっとと行ってあいつ等にまだ試合中だって言ってこい!!
おい、壁山ぁ!!てめぇも行ってあいつ等の姿、相手チームから隠してこいやぁああ!!
少林と宍戸で相手チームの記憶かたっぱしから消してこいやああこらああああ!!」



結局この試合は途中で没収試合となった。
勝ちをプレゼントどころか没収試合になる原因となった豪炎寺が次に何を誕生日プレゼントに選んだのか雷門イレブンは知るよしもない。

というか容易く想像できるその内容を知りたいと思う者は誰一人居ないのであった。


 END

 

prev next




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -