初めてのデート?



えーっと?これは一体何がしたいんだ?


「半田、こっちこっちー!行きたい店、あっちだよ☆」

待ち合わせ場所に走ってきたかと思ったら、一之瀬は挨拶もそこそこに来た方向に踵を返す。
おい、何で駅の改札待ち合わせで、お前は駅の外から走ってくるんだよ。
汗掻いちゃって何やってんの?
ってか、なんでナチュラルに今、俺の手、握ちゃってんの?


俺の手を引き、前を足早に歩く一之瀬は何故か真剣モード。
サッカーの新技に挑戦する時みたいに、わくわくしちゃって楽しそうで、んで他の事は目に入らない。
当然、今の目に入ってない『他の事』って俺の事だろ。
だって急に手を握られて困惑してる俺の様子なんて全く気付いてなさそうだし。
こんな街中で男同士で手を握っちゃってる事なんて何にも考えて無さそうだし。
多分その行きたい店ってのに夢中で一緒に居る俺は付いてきて当たり前って感じなのかもな。
いつも一之瀬と一緒の土門はそんな感じだし。
手を握ったのも、俺が遅れないようにって事だろ。


あーーーっ、もうッ!!!

なんか腹が立ってきた。
こっちは休みの日に稲妻町の駅じゃなくて他の大きい駅で待ち合わせってだけで、すっげードキドキしたっつーの!
待ってる間も、どんな風に一之瀬が来るのかなぁとか、来たらどんな風に話そうかなぁとか、想像して勝手にドキドキしてたっつーの!
馬鹿か、俺!乙女かっつーの!!
大体誘ったのは一之瀬の方だろーが!
マジで買い物だけが目的なら、俺を誘うな!
手を握るな!
そんな事されたら、こっちは期待すんだよ!
なんたって俺は一之瀬の事好きなんだからな、ぶぁーーーーーーっか!!


街中を歩いてる間そんな事を考えていたせいか、一之瀬が俺の手を引きながら大きな複合ビルの一角にある、ありふれたチェーン店のスポーツショップに入った瞬間、思わず俺の口から本音が漏れた。

「お前、馬鹿だろ」

「えー、何?急に」

「お前、馬鹿かって言ったんだ!
この店なら稲妻町にだってチェーン店あるだろっ。
わざわざ俺誘って、ここまで来る必要無いじゃんか!」

ぶんって思いっきり手を振り切って一之瀬を見る。
なんだよ、俺ってば一之瀬の中でこの店に負けちゃうくらいの優先順位なの?
あー、本当に俺、コイツに振り回されすぎ。
俺はぷいっと、え?って顔の一之瀬から顔を逸らす。

「俺、そこで待ってるから早く買い物済ませて来いよな!」

一之瀬がなんとも想ってないのにもうこれ以上手を握ってんの辛すぎる。
きっと、あれだ。
買い物に夢中になってあっさり俺の手なんて離しちゃうんだろ、きっと。
だったらがっかりする前に自分から離して、一人で待ってた方がマシ。

そう思って、店の外にあるベンチんとこにでも行こうとした。
って、あれ?身体が動かない。
振り返ると一之瀬が俺の手をまた握っている。
え?え?俺、もしかして引き止められてる?


「ゴメン!半田を怒らせるつもりは無かったんだよ!
ただ他に適当な店が無かったから」

ん?どういう事?
え?俺、急に手を握られてドキドキしすぎて頭が馬鹿になってる?
一之瀬の言ってる意味がよく分からなくって、俺は首を捻る。
すると一之瀬はちょっとだけ慌てだした。


「あ!適当ってのは言葉のアヤで。
あれ?言葉のアヤって言葉で合ってるかな?
違う、言いたいのはそういう事じゃなくって」

なんか一之瀬があたふたしてる。
何か口が滑ったのを誤魔化そうとしてるみたいだけど、何が失言だったのか見当もつかない俺は口が挟めない。
ただ唖然としていた俺の前で、一之瀬は暫くあたふたした後、観念したように片手で顔を隠した。


「ゴメン、実を言うと買い物は口実。
本命はここの上にある水族館なんだ。
半田って動物好きそうだし、ここなら買い物ついでに誘えばOKしてくれるかなーとか色々考えた結果がこれだったりする」

えーーと?
それはもしかして、もしかすると……?
期待していいのか、しちゃ駄目なのか俺は一之瀬が話してる間、ずっと考えていた。
そんな俺をきょとんとしてるように一之瀬には見えたのかも。
何も言わない俺に、一之瀬は少し照れた顔で言った。


「えっと、まだ来たばっかだし時間もあるから一緒に水族館でもいかない?
あ、水族館が嫌だったら別に他のとこでもいいし。
テーマパークとかも入ってたよね、ここ。
あと色々イベントもやってるみたいだし」


来たばっかって…、そりゃまだ買い物一つしてないし。
一之瀬の言ってる内容も、その態度もどこからどう見ても必死って感じだった。
しかも手はまだ繋ぎっぱなし。
ニヤニヤするの堪えるって結構大変なんだな。
うー、口の端がぴくぴくしそう。
これってさ、期待するなって方が無理だよ。
期待しちゃうよ?俺。


「確かここの水族館ってこの前、改装したんだよな」

「えっ?ああ、そうみたいだね」

あー、やっぱ期待しちゃうよ。
だって俺の回りくどい答えに一之瀬だって「期待してます」って顔してんだもん。
一之瀬も実は俺に振り回されてる、とか考えちゃったら嬉しくなっちゃうだろ。


「俺、改装してからここの水族館来た事ないし興味あるなぁー。
一之瀬が来たがる気持ち分かるかも」

俺は精一杯興味無いフリしてさり気なく答える。
だって、また期待してがっかりするの嫌だし。
はっきりした言葉を貰うまでは、浮かれちゃうのは早いだろって思うから。
……って、言い訳してみても結局はただ一之瀬からはっきりした言葉が欲しいって事なんだけど。
でも俺の素直じゃない答えでも、一之瀬の顔は綻んでいく。


「じゃー、早く行こうか」

またさっき駅で会った時みたいに、一之瀬はわくわくした顔で俺の手を引いていく。
えっとー、これは俺とのデートにわくわくしてるって事なのかな?
でもその割りには俺自身の方はあんまり見ないし…。
もしかして本当に水族館に行きたかったとか?
もうっ、一之瀬ってば分かりにくいよっ!
やっぱりちゃんと言ってくれよ、「好きだよ」って!!


俺は、眼を輝かせて俺の手を引く一之瀬の横顔を見ながら、
「好き」ってはっきり言葉を言ってくれるまでは期待しすぎないようにしようって心に決めた。
もおーーっ!デートに誘ってんならはっきり言え、ぶぁーーーーーーっか!!!


 END

 

prev next




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -