NYで入浴



「もういいよー」

俺は湯船に浸かりながら脱衣所に居るだろう一之瀬に声を掛ける。

え?何してるかって?
えーっと、えーっと…。

久しぶりに帰ってきたアイツが、帰ってきて開口一番一緒にお風呂入りたいとか言うから。

まあそのー…、仕方なくってヤツ?

しっ、仕方ないだろっ!?遠征で本当に久しぶりだし、一緒に入ってくれないと風呂入らないとか馬鹿な事言うし!
しかも既に薔薇の香り付きのバスソープなんて用意してるし!

本当は一之瀬が風呂入ってる内に飯の支度したかったんだぞ、本当だってば!!


……だから、えーっと、そういう訳で一之瀬と一緒にお風呂入ってマス。



「もう、いつまで経っても半田は恥かしがりやだなー」

一之瀬がニヤニヤしながら風呂場に入ってくる。
当然ながら全裸。タオルさえ無い。
風呂なんだから裸なのは当たり前なんだけど、電気が点いてて明るいんだから少しは気を使ってほしい。

…見てらんないじゃんか。

俺はどこ見ていいか分からなくって、ちゃぷちゃぷと湯船に波を立ててみる。

波が立ち、湯船いっぱいの泡が俺の体を隠して揺れた。



「あー、本物の半田だぁ」

一之瀬が湯船の中で俺の後ろから抱きかかえるように凭れてきて、俺の肩に顎を乗せてシミジミと言ってくる。


……本物なんだから気安く肩に顔乗せんなよ、緊張すんだろうが。

ほんと、一之瀬に緊張とか俺馬鹿みたい。
こんなの一緒に住んでから何回だってあった事なのに。
少しの間離れただけで、もうこんなに緊張しちゃうとかホントありえない。


俺はまた湯船に波を立てる。
ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ。
泡が踊るように揺らめいて、微かに一之瀬の脚を見え隠れさせる。
その脚が前より逞しく見えて、俺はぱしゃぱしゃと動かしていた手を止める。

もう泡で遊ぶ事も出来なくて、俺は膝頭におでこを乗せる。


あー、俺って一之瀬とどんな風に話してたっけ?

昨日だって一之瀬と電話で話したはずなのに、どうしてか思い出せない。

俺は話題を探して膝を抱えて、一生懸命頭の中を探し出す。
俯いたせいで露になった首の辺りに一之瀬のすんすんって俺の匂い嗅いでるのを感じて、俺は慌てて顔を上げる。


「あっ、そーだ!これ、この髪型どう思う!?
土門が髪切ってくれるっていうから信じて任したのに、こんな髪型にしたんだぞ!?
こんな事なら普通に店行けば良かった!
写真とか持ってけば英語下手でも通じただろうし」

襟足はすっきりと短くなったのに前とサイドは長さがあまり前と変わっていないこの髪形は、ちょっと女の子っぽくて恥ずかしい。
アメリカに来てからビビって髪切りに行ってない俺を見かねて土門が昨日どこかからちゃんとした鋏を調達して切ってくれた。

そのせいで今、一之瀬は簡単に俺の首筋の匂いを嗅いでいる。
土門の馬鹿っ!
何が新しい髪形で一之瀬をメロメロにしちゃえよだよ。
俺がどうにかなりそうだよっ!


俺はそれでもつらつらと一方的に話し続ける。
新しい髪形の事、それに合わせて買わされた土門コーデの今までのワードローブには無かった種類の服。
土門の文句を交えて俺は一生懸命話した。
本当はそんな風に一之瀬に会う準備をするのが恥ずかしいけど嬉しかったくせに。

だってそうしないと、肩に顔を埋めてる一之瀬にのぼせてしまいそう。
本物の一之瀬の破壊力は、俺にはすご過ぎるよ。

体洗ったばっかなのに、変に汗かいちゃってて自分の匂いがちょっと気になるなんて、…やっぱ俺、馬鹿だ。



「一之瀬、聞いてる?」

俺は肩の顔を上げて欲しくて、そう訊ねた。
話す時は流石に少し顔を上げないとしゃべれないだろうし。

でも一之瀬は俺がそう言うと顔は上げたものの、俺の首の後ろ側にちゅっと口付けた。

うひゃあって俺の変な声が風呂場に響く。


「うん、可愛い。新しい髪形、俺好きだよ。
こうやって首にもすぐキスできるし」

顔に熱が集まって、一気に体感温度が何度か上がった気がする。


「あー、でもこの髪型だとキスマーク付けられないね。
これからはキスマークは首以外の場所だね」

首以外って…。

一之瀬の言葉に反応して変な想像してしまう。なんだか頭がボウッとしてきた。

顔どころかキスされた首まで真っ赤になってしまった俺を見て一之瀬が俺の肩のところでくすりと笑う。


「このままだと半田のぼせちゃいそうだし、もう出ようっか。
……待ってる間に寝室の暖房入れてきたから、裸のまま行っても大丈夫だよ?」


にっこり笑うえっちな確信犯の顔に俺はシャワーでお湯を掛けた。
どうせ最初からそのつもりで一緒に風呂に入ろうなんて言ったに決まってる。

一之瀬がお湯を手で拭ってる間に、俺はそのままシャワーで体の泡を洗い流すとお風呂から出てしまう。



でも、服も着ないで逃げるように寝室に向かってしまう俺は、一之瀬に負けず劣らず馬鹿なのかもしれない。


 END

 

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