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「悪い……」
あの後、一言だけそう言った風丸は、踏んで潰してしまった草を見ていた俺が顔を上げた時には自転車に跨っていた。
「明日にはどうにかする」
そう険しい顔で言うと、なんで風丸が謝っているのかさっぱり検討のつかない俺の顔を見て少しだけ笑った。
「半田の気持ち、分かるよ。
仲が良くないと仲間って言わないよな。
……ゴメン、半田」
風丸はほんの少しだけ困った顔で笑うと、すぐに自転車をスタートさせた。
風丸の見事な髪がふわりと翻る。
それは見事なまでに新緑色で。
俺が踏みにじった草が一足先に蘇ったみたいだった。
次の日部活に行くと、今までが嘘みたいに鬼道と一之瀬の仲は良くなっていた。
「一之瀬。
ポジションは一之瀬、半田、俺、マックスの並びがいいと思うんだが、どう思う?」
「流石、鬼道!
半田はDFも出来るぐらいだから、ボランチ向いてると俺も思ってたんだ」
二人で半田をフォローしていこう。
そう言って爽やかに笑いあう二人がなんだか嘘くさくてぶっちゃけ気色悪い。
マックスが二人を見て「変わり身早っ」ってニヤニヤしてる。
それが何に対するツッコミなのかは俺には分からない。
それでも今日のスムーズな練習と、宍戸と少林の笑顔が誰のお陰かは俺にだって分かる。
ちらっと功労者の姿を求めてゴール前で集まっているDFの方を見る。
声は聞こえないけど、風丸が栗松と壁山を褒めているみたいだ。
――いいなぁ…。
ぐりっと頭を撫でられてる栗松を見て咄嗟に浮かんだ想いを、俺は慌ててかき消す。
馬鹿か、俺は!
ぶんぶんと頭を振ると、思いっきり振ったせいでくらっと眩暈がしてしまう。
「半田、どうした!?」
「半田、貧血!?無理しちゃ駄目じゃないか!!」
くらっと少しだけよろめいた俺を目聡く見つけた鬼道と一之瀬の大声がグラウンドに響く。
俺の事を凄く心配してくれている二人よりも、風丸の視線一つが嬉しい俺はきっとどうかしてる。
俺の知らない気持ちが確かに俺の心に芽吹いている。
それはきっと新緑色の芽。
風丸色の新しい芽吹き。
END
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