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「半田は一人で頑張り過ぎだ。
同じ部の仲間なんだから、もっと俺に頼ればいい」

きっぱりと言い切る風丸は、格好良くて。
なんでだろ、なんだか凄く…。


やば……、今すぐ逃げたい。


「は、…はは。
あー…、頑張ってないって。俺なんて」

俺は誤魔化すように苦笑して、今までゆっくりだった歩幅を大きく早くする。
早く、早く一人になりたい。
風丸はこんな格好いいのに、これ以上格好悪いとこ見せたくない。
なんだよ、「一年はDFの練習に参加させたい」って。
それって自分じゃ解決出来ないって言ってるようなもんじゃないか。

しかも、風丸の言葉にちょっと泣きそうになってるとか。
同じ学年の風丸に頼りたくなってるとか。

……こんなのバレたら惨めすぎる。


「そんな事ない!半田はよく頑張ってるよ」

それなのに風丸はすぐ俺に追いついて、こんな事を言ってくる。
なんだよ、風丸の馬鹿。
格好いい上に足まで速いなんて反則じゃんか。
こんなんじゃ走って逃げても追いつかれるに決まってる。

また、俺の歩幅がゆっくりと小さくなっていく。


「半田…?」

完璧に足の止まった俺の隣に風丸が寄り添う。
どうした?って言わんばかりのその表情は、男の俺が見たって整っていて格好いい。
こんなの俺が勝ってっこない。

……じゃあ、いいのかな?
勝てない相手なら、俺が少し頼るぐらい。
同じ年で、同じ男でも。


「あのさ、もう少しいい?あと少しだけ」

部活帰りにゆっくりと歩いていた俺達の周囲は、もうすっかり薄暗い。
腹だってもう限界ってぐらい空いている。
それなのに風丸は、俺がそう言うと迷惑なんて少しも思っていない顔でしっかりと頷いた。


住宅街のなんて事ない曲がり角。
街頭さえ無くて、密集した住宅やアパートから漏れる微かな光ぐらいしかない。
時折スーツ姿のおじさんが通り過ぎていくけど、誰も俺達の事なんて気にしていない。
皆、どれだけ早く家に帰れるか競ってるみたいに早足で、俺達だけが時間から取り残されたみたいに動くのを止めてしまっている。

「あの、な」

「うん?」

俺の口もゆっくりしか動いてくれない。
これから言うのはすごく格好悪い事だって分かってるから、ゆっくりでも仕方ないのかもしれない。
でもこんな事、風丸にしか言えない。
他の誰にも言う事なんて出来ない。


「今さー、うちって凄い頑張ってるじゃん?」

「ああ」

俺は足元の雑草を脚で踏み潰しながら話し出す。
風丸の相槌もなんだかゆったりしている。

「少し前だと考えられないぐらいサッカー強くなったし。
毎日グラウンド使うのも無理だった俺達がサッカーボールフロンティア出場とか、本当夢みたいだよなー」

「かもな」

踏んでも踏んでも雑草は抜けたりしない。
多分、一週間後にはまた青々としてるはず。

「でも、鬼道とか一之瀬とか入ってきて。
鬼道が今までのサッカー否定したりとか、
鬼道と一之瀬が高いレベルでライバル意識持ったりとかさ…。」

「……」

風丸の相槌が止まる。
呆れてたらどうしよう。
そう思うのに、ここまで言ってしまったらもう止まらない。

「ポジション争いとか、ライバル意識とか、そういうのも大切だって分かってるんだ。
そうやっていつでも競いあってるのが向上心に繋がってる事とか」

「……」

「そりゃ俺だって強くなって勝って嬉しいし、楽しいよ?
でも、でも、思うんだよ。
仲間なんだから仲良くしたいって。
部活なのに楽しくないのは嫌だって」

なんとか言ってよ、風丸。
こんな弱音、新しく入ってきたヤツらには当然言えっこないし、負けん気の強い染岡に言ったら怒られそうだし、円堂は分かってくれっこない。
風丸にしか言えないのに。
何も言ってくれない苛立ちが俺の言葉を加速する。


「なんでアイツら仲良くしてくんないんだよ!?
もう嫌だッ!!前の方が良かったなんて思いたくないのにッ!!」

ぎゅうっと唇を噛み締めた俺の足元で、雑草が幾重にも折れて潰れてる。
その雑草が白い小さな花咲かせていたことに、俺は潰してから気付いた。


 

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