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「って、あの二人ってばいっつもこうなんだぜー!?
まったくどうにかして欲しいよ!!」

半田が唇を突き出して怒ってる。
その顔は夕日に染まったせいだけじゃなく、興奮のせいで少し赤い。
心底怒っているんだろうけど、そんな風に怒る半田は子供っぽくって可愛い。
……本人に言ったら怒るから内緒だけど。


「しかもさ!アイツら部活だけじゃなく休み時間も競い合ってんだぜ!?
信じらんないだろー!?子供かって言うんだよ!!」

「へー、それは知らなかったな。
半田のクラスでか?」

部活の帰り道、半田に相談があるから一緒に帰ろうと言われた俺は、自転車を押しながら今、半田の隣を歩いてる。
さっきから半田の口から出るのは最近目に余るようになった二人の事。
でも俺の知ってる事実とは少し異なる状況が半田から語られる。


「そー!!
アイツら土門が居るからってわざわざ俺のクラスに休み時間に来るんだぜー!?
気が合わないならズラせばいいのに、なんでかいっつも一緒に来るしー!!
信じらんねーよ、まったく!!こっちの身にもなって欲しいよ!!」

土門の他に友達居ないのかよ、あの二人は!とぶつぶつと文句を言う半田は全く気付いてないらしい。
あの二人が何の為に半田のクラスにやってくるのか。

……教えるつもりも無い俺も、半田を傷つけているのだろうか?


「そうか…、アイツらにも困ったもんだな。
俺からも注意しようか?」

「うーん、これ以上酷くなったら頼むかも」

俺が立ち止まって苦々しくそう言うと、半田も困ったって顔で俺を見てくる。
ああ、なんで半田はこんなに素直なんだろう?
自然に俺を頼るその姿も、
あの二人の目的が自分だなんて微塵も思い至らないその鈍感さも、こっちが心配になるくらい純真でハラハラしてしまう。
俺にこんな相談をするぐらいに、あの二人はお互いサッカーのライバルで、土門に会いに半田のクラスに来ていると心から信じている。


俺はこんな純真な半田を守りたい。
半田に余計な事は一切教えず、半田の信じている綺麗な世界を守っていきたい。
もしかしたらそれは俺のエゴなのかも知れない。
でもそれは頼られるとつい誰の世話でも焼いてしまう俺が、自ら見つけたたった一つの存在なんだ。
どうしてもそれだけは譲れない…!


「もう充分酷いと思うけどな。
練習、ちゃんと出来てないんだろ?」

「うん…。俺はアイツらに文句言えるからいいけど、一年は何にも言えないから可哀想でさ」

俺の言葉に半田が少し俯き、また歩き出す。
半田は自分も困っているだろうに、一年の心配までしている。
こんなところも半田らしい。

「だから明日から、またアイツらが揉めたら一年にはDFの練習に参加させて欲しいんだ!」

俯いて歩いてた半田がぱっと顔を上げて言う。
そこで漸く今までのが相談では無く、ただの愚痴だった事に気付いた。


「相談って…、もしかしてソレの事か?」

「そー。
だって可哀想じゃん?アイツら最近ずっと困った顔ばっかしてるし。
だから平和なDFの練習に参加させてのびのびサッカーして欲しいだよ」

振り返った半田の顔は眉が寄ってるのに、口元は笑ってる。
半田本人は頼れる先輩の顔をしてるつもりなんだろうけど、俺には無理してるようにしか見えない。
抱き締めたくて、でもそんな事出来るはずもなくて。
俺は半田の代わりに自転車のハンドルをぎゅっと握る。


「そんなの…、いいに決まってるじゃないか!!
一年だけじゃなく、半田も一緒にDFの練習に参加すればいい!!
もっと早くそうすれば良かった!
悪かった、半田!」

俺がバッと頭を下げると半田が慌てた声を出す。
顔を上げると勢い良く半田が両手を振っている。

「ちょっ!風丸が謝る事じゃないだろー!?
っとに、風丸は本当に真面目なんだからなー」

半田の顔に苦笑いが浮かんで、すぐ本物の笑顔に変わる。

「でも風丸らしい。
一年とか円堂がお前を頼りにしてるの、なんか分かる気がする」

はにかんで、そう言う半田の顔はやっぱり少し赤くて。
今は怒ってるはずもなくて、それはつまりそう言うことで…。

かあーっと俺の顔も赤く染まっていく。



こんな風に思うのは本当は許されないんだろう。
でも半田には悪いけれど、
半田を取り合っていがみ合ってる一之瀬と鬼道にも悪い事だと思うけれど。

……こんな笑顔を向けられたら、どうしても嬉しいって思ってしまう。

許されないとは思いながらも、もっとこの状況が続けばいいのにと思ってしまう。
半田が困って、俺に頼って、俺に頼りきって甘やかされる事に慣れるまで――。
この状況が続けばいい。
そう、俺は思ってしまっている。

罪悪感を抱えながらも、俺は半田に笑う。
ずるい自分を隠すように、半田を少しでも半田の悩みから守れるように。


「半田、困った時は俺を頼っていいから。
半田は少し自分だけで頑張りすぎてる。
少し俺にもその苦労を分けてよ」



 

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