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半田は怪我をしていない方の膝を立てて、腕を乗せ更にそこに不貞腐れた表情の顔を乗せた。


「お前さぁ…」

「何?」

ああ、もう重症だ。
すっかり半田に意識されてると思ってしまった俺は、怒ってる表情でもその原因が俺と近すぎる事に怒ってると思うだけで凄く幸せな気分になってしまう。
人一人分空いた今の距離さえ、もう遠いなんて思えない。
俺との距離を少しとってしまう半田を可愛いとさえ思えてしまう。
顔が勝手に緩んでしまう。


「お前っていつもこんななの?
なんて言うか、…その、こうさぁ」

「こんな?」

半田が言葉で上手く言い表せないのか、少し困ったようにコツンコツンとおでこを自分の腕にぶつけながら訊いてくる。

「だからー!
…その、こうさぁ」

「?」

でも「こう」って言われても俺の何が「こう」なのかよく分からない。
ただ、そうやって困った顔でコツンコツンしてる半田が可愛くって、俺はただ半田をにこにこしなかがら見つめていた。

こんな纏まっていない言葉とか伝わり辛い言葉なんてメールでは俺に送られてくる前に消されてしまうんだろうな、
なんて思うと今、実際に半田に会って話している嬉しさが体中を駆け巡る。
しかもこんな可愛い動きまで付いている。

本当に、今日無理してでも来て良かった。

半田は言葉にするのを諦めたのか、俺が何を言ってもにこにこして伝わらないのに呆れたのか小さく溜息を付いた。


「もお、いい」

そう言うと顔を腕に埋めてしまう。
ああ、やっぱりさっきの言葉はメールで届く前に消されてしまう種類の言葉だったんだ。
後にも残らないような言葉だけど、それでも俺の胸はこんなにもドキドキしてる。

半田も同じぐらいドキドキしてくれたらいいのになぁ。


「ねえ、半田」

「…なんだよ」

半田は顔も上げずに返事だけが返ってくる。
半田をドキドキさせたい俺は、半田が見ていないのをいい事にさり気無く少しだけ距離を縮める。

「半田は普段何してるの?」

「はあ!?」

俺の要領を得ない質問に半田が膝に頭を乗せたまま、顔だけを俺の方に向けた。
少しだけ伸びた髪が半田の顔に掛かる。
いつもより少し半田が大人びて見えてしまう。

ドキドキさせたいのに、それだけで俺の方がドキッとしてしまう。

もう半田の方を見てられなくて、俺は半田から視線を逸らして夕暮れ色に染まりだした空を見上げた。


「メール、俺とするのは午前だけでしょ?
他の時間は何やってるのかなと思って」

本当は「俺以外の誰かともメールしてる?」とか「頻繁に見舞いに来る人居るの?」とか聞きたかったはずなのに、機先を挫かれた俺は随分下手な探りを入れた。

俺ってこんな臆病な奴だったのか。
もっと積極的な人間だったと思っていたのに、自覚したばかりの恋心は俺を臆病な人間に変えてしまったみたいだ。

男同士、チームメイト、同じポジションのライバル。
俺と半田を隔てる言葉はそれこそ山のようにあって、伝えたい気持ちを縛っていく。
俺を臆病者へと変えていく。


「お前なぁ!入院している人間にそれ聞く!?
相変わらずデリカシー無いヤツだなぁ!」

俺の制限に制限を重ねた言葉は、半田に苦笑いをさせただけだった。
俺がチラリと半田の方を向くと、半田は苦笑いの表情でそう言うと丸めて居た背中を伸ばした。


「暇してるよ。
午前にここでお前とメールして、そしたら午後は病室でうだうだしてるだけ。
もう見舞いもあんまり来なくなったしなー」

風に攫われて、今度は顔に掛かっていた髪が後ろへと撫で付けられ顔が露になる。

髪の毛が顔に掛かっていてもいなくてもドキッとしてしまう俺は本当に重症だ。
しかも返ってきた答えは俺を浮かれさせるには十分なものだった。


「ここで?
半田はここでメールしてるの!?寒くない?」

「慣れた」

あまりに自分に都合良過ぎて俺は再度訊ねてしまう。
それなのに返ってきたのはこれ。
ああ、もうヤバい。
半田はなんでも無いように笑うけど、俺とのメールが半田の中でもう習慣になってるとか。
俺との時間、ちゃんと半田の中で組み込まれてるとか。

ああ、もうヤバすぎる。


「ハハッ、俺も土門に課題やらせてこっそりメールするのすっかり慣れたよ」

「それは慣れちゃ駄目だろ」

緩む顔を冗談で紛らわせれば、半田の顔にも笑顔が浮かぶ。
どうしよう、好きって伝えたら迷惑かな?

「だって半田とメールしてる方が絶対有意義だし」

「んな訳ねー」

今度は本音を冗談に擬態させれば、半田が軽やかな笑い声を立てる。
メールでは届かない、半田の笑い声。

ああ、もっと聞きたいな。
半田に俺の隣で毎日こうやって笑って欲しい。

「半田」

「ん?」

「これからも俺、半田にメールしてもいい?」

改まった俺の頼みに、半田が少しびっくりしたように目を見開く。
びっくりさせるような事、言ったかな?俺。
半田の反応は簡単に俺の心を左右するから、俺はこんな風に簡単に臆病者になる。


「勉強より半田とメールしたいし」

「なんだ俺のメールはその程度かよ〜」

その程度どころか本当はどれぐらい半田を大切に思っているかなんて素直に言えるはずもなく、俺は半田に合わせるように笑った。

メールだけじゃなく半田ともっと一緒に色んな事がしたいよ。
なんて、言いたかった言葉は半田の驚いた顔でどこかへ飛んでいってしまった。


「あ、そうだ!
お前、確認したい事あったんだろ?確認したのかよ?メールの事じゃないんだろ」

「うん、改めて確認する必要なかった」

それでも。
それでも、この心の浮遊感を無い事には出来ない。
自分の心を否定してしまう程、臆病者にはなりたくない。


「なんだそれ」

「なんなんだろうね」

こうやって半田と笑い合いたいと思うから。
メールだけじゃなく半田と一緒に過ごす時間がもっと欲しい。
そして、ゆっくりゆっくり半田との距離を縮めていこう。

俺はまた改まって半田に向き直る。
今度こそ言いたい事をはっきりと半田に告げる為に。


「俺、頑張って一刻でも早く宇宙人倒してくる」

「おー、応援してるからな!」

密かな俺の本気宣言。
少しでも早く半田の元に戻ってくるっていう俺の宣言。

覚悟していてね、半田。
全てはそれからだ!


 

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