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「久しぶり、半田!」

自覚してしまうと、なんだか目が覚めたように視界が広がって見えてくる。

俺の満面の笑みに、半田が困ったように口をへの字にする。
でも頬は少しだけピンクになってる。
すごく……、

可愛い!!


「もうっ、なんだよ急にへらへらすんなっ!」

「ハハ、なんか久しぶりで緊張してたみたい。
俺らしくなかったね」

半田が怒ったっていうより照れ隠しで松葉杖を俺にコツンとぶつけてくる。
半田と俺の距離は、丁度松葉杖が届く距離。
体が触れるどころか、手を伸ばしても届かない距離。

これが今の俺と半田の距離。

…遠いなぁ。


「半田もさ、少し緊張しなかった?
だってメールでは凄く盛り上がったけど、俺達今まで仲良かった訳じゃないし」

「お前…。
それぶっちゃけ過ぎだろ」

「そう?」

どうしよう、メールと同じようなやり取りなのに半田の顔が、声が、何よりこうやって一緒に居ることがすごく楽しい。

エレベーターの操作パネル付近と奥の壁が遠いなんて今まで思った事無かったのに。
なんだか、この微妙な距離がもどかしい。

でも、多分これが俺達の今の距離だ。
やっと友達になれたばかり。
しかも不必要に距離を縮めて友達に落ち着いてしまうのも、それはそれで俺は嫌だ。

うーん…、なんだか難しいな。


「うん…、そうだな…」

半田が松葉杖を床にぐりぐりっとさせながら口篭る。
なんだか半田の一挙一動が気になってしまう。
言いよどんでいる言葉は何?
何で言おうかどうしようか迷ってるの?
気になってしょうがないのに、半田が続きを口にする前にエレベーターは目的の階に着いてしまう。


「こっからは階段だな」

半田は言いよどんだ続きじゃなく、そう言うとやきもきしてる俺の横を通り過ぎていく。
歩く時はそうでもなくとも、流石に階段を登るとなると松葉杖の半田の進みは、俺より断然遅い。


「おま、傍でうろちょろされるとその馬鹿デカイ荷物が邪魔なんだけど」

早く登って扉を開けて、すぐさま半田のところに戻ってきて。
それからどうしたら半田の役に立てるか分からなくて前に回ってみたり、邪魔かと思って後ろに移動したりしてたら半田に笑われてしまった。
半田に言われるまで、すっかり荷物の存在なんて頭から無くなってた。


「先行って、荷物置いとけよ」

邪魔と言われて俺は困った顔をしていたらしい。
半田はそう言うと顎だけで屋上を指し示した。

あー…、荷物とかどうでもいいから少しでも半田と一緒に居たいんだけどな。
なんか…、半田の言動はやっぱり「友達」って感じだ。


「…先、行ってるね」

俺は急に重さを増した荷物の位置を直してそう言った。
屋上なんてもう後数段だ。
俺はその数段を登る為、半田にくるりと背を向けた。
それから半田に見えないように、小さく溜息を吐く。

…本当、難しいなぁ。


「うわ」

さっき一足早くドアを開けた時には半田に気をとられて気付かなかったけれど、
一歩外に出ると周囲に高い建物の無い病院の屋上は思った以上に風が強い。
屋上に干されたシーツが風に棚引いていて圧巻だ。
俺はバッグを下ろして、乱れた髪を手櫛で直した。


「結構風強いだろ?」

振り向くと、いつの間にかすぐそこに半田が居た。

「こっち」

半田は慣れた感じで風があまり当たらない入り口付近の壁沿いに座った。

「ここならあんま風来ないから」

そう言って半田はすぐ隣を手で叩いた。
隣に座れって意味にしか見えない。

ヤバ。
俺ってこんなに単純だったっけ?
その距離の近さに、思わず顔が笑いそうになる。
さっきのエレベーターとは近さが全然違う。
それだけで「こんなの友達なら当たり前。友達でも当たり前」って自分で諌めないと舞い上がりそうだなんて我ながら相当単純だ。
俺は平静を装って、半田のすぐ隣に座る。
勿論バッグは半田とは反対側に置いた。


あまりにも近くに位置取りしすぎて、腰掛ける時に肩が触れる。

――ああ、ほら。

俺に触れた途端、半田の肩がぴくんと強張った。
こんなの。
単純だから誤解してしまう。


「当たったね、ごめん」

さり気無さを装って、俺は半田に何でも無いように謝る。
「友達」と思われたくは無いけど、「変な奴」とはもっと思われたくない。

――それなのに、ああ。


「もう…っ。
…お前、近いってぇ」

こんな顔されたら俺は単純だから、もう誤解とさえ思えなくなってしまう。


赤くなった顔を手で隠して半田がそっぽを向く。
こんなの意識されてるって思っちゃうよ、俺。
ずっと続いてる友達扱いより、たった一回の些細な希望の光の方が俺にとっては重要って知ってる?

誤解じゃないって、思っていいの?俺。
ねえ?半田。思っちゃうよ、俺。


屋上は風が強いのに、半田お勧めのこの場所は風なんてあまり感じない。
俺は少しでも頭を冷やそうと、ふるりと頭を振った。

熱なんて、横の半田の顔が赤い内はどんな強い風が吹いたって収まりそうもなかった。



 

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