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――お、今日は吹雪の顔か。

朝、目が覚めてすぐにケータイのチェックをするのが最近の俺の習慣だ。


あの日、一之瀬と長々とメールの応酬をした後、次々と俺が打ったメールの返事がきたけど結局一番盛り上がったのが予想に反して一之瀬からのメールだった。
染岡のメールはなんだかそっけなかったし、円堂からのメールは何故か途中でと切れていた。
風丸のメールはどことなく暗かったし、土門のメールはこれまた何故か一之瀬の話題ばっかだった。
鬼道のメールは説明書かってくらい事務的だったし、豪炎寺からは結局メールさえ返ってこなかった。
そんな中、一之瀬だけは暇さえあればすぐ俺にメールをくれた。

北海道に向かってる事。
豪炎寺の離脱でキャラバンの中の雰囲気が悪化してる事。
白恋中に向かう途中で迷子を拾った事。
ソイツが結局探していた吹雪士郎本人であった事。

一之瀬は白恋中に着くまでの移動中の出来事をなんでも俺に教えてくれた。
最初は急にメールしてくるようになった一之瀬にびっくりもしたけど、そんなのはすぐ慣れた。
置いていかれたと思っていたキャラバンの様子を教えてくれる一之瀬のメールが嬉しかったってのもあるし、
それに俺に一之瀬がメールくれる理由もなんとなく想像つくし。


多分一之瀬は暇なんだと思う。


一之瀬って、豪炎寺の離脱をどうこう思う程雷門中サッカー部に思い入れ無さそうだし。
一之瀬ってサッカー以外に興味無さそうだもんな。
円堂もそんな感じだけど、一之瀬は円堂と違って土門に勉強やらせてサボってるみたいだし。
暇、なんだろうな。


だから俺は北海道に着いてサッカーの練習がしっかり出来る環境になれば一之瀬は俺にメールなんてしてこないだろうって思ってた。

これ、俺の一つ目の誤算。


一之瀬は白恋中に着いて、サッカーの練習が再開されても俺にメールを寄越し続けた。
まず朝練が終わった後、写メの付いた日記みたいなメールをくれる。
それを朝起きて、布団を被ってチェックするのが俺の今の習慣になっている。
あ、布団の中でチェックするのはマックスが頻繁にくる一之瀬からのメールにいちいち茶々入れてくるのがウザいせいね。
別に深い意味は無い。
それから俺がその感想をメールして。
それに対する一之瀬からの返信は午前の練習が終わった後。
11時過ぎくらいから俺たちどっちかの昼飯の時間までメールのやり取りが始まる。
これがぶっちゃけ結構楽しい。

一之瀬のメールは基本、サッカー部に起こった出来事をそのままメールしてくれる。
で、俺がそれにツッコミしたりとかもっと詳しく教えてくれってメールすると一之瀬の意見の混じったメールが返ってくる。
それが「えー、一之瀬ってこんな考え方するのか」って新鮮で、近くに居て一緒にサッカーするだけじゃ分からなかった一之瀬の事を少しずつ知ってく感じでわくわくする。
なんかキャラバンに起こってる出来事と一之瀬自身の考え方のどっちにも興味が湧いてきて、あっちもこっちも気になってきて時間なんてあっという間に過ぎちゃう。

一日で一番の楽しみが一之瀬とのメールになっていた。


今日の朝のメールの件名は『これが噂の吹雪だ!』
熊殺しの吹雪なんて呼ばれてるからゴツイ大男を想像して行ったら、想像を裏切る外見だったって前にメールにあった。
そんな事書かれたら興味湧くよな?
しかも煽るようなこの件名。

俺は布団を被りながらいそいそとメールをスクロールしていく。
結構アップっぽいその写真。
青みがかった銀色の髪がぴょこっとてっぺんで撥ねてるのまではっきり写ってる。
もう、アップで写し過ぎだろ。
中々顔が出てこなくて、俺はワクワクしながらメールをスクロールしていく。

…でも、写真はそれで終わりだった。
そう!写ってたのはそのぴょこっとした双葉だけ。
おかしいだろ!?コレ!
俺はまんまと騙されたがっかり感と少しの憤慨と共に、まだ少し残っていた分のメールの内容をスクロールしていく。


『頭だけでがっかりした?
でも俺は吹雪のこの髪型を見て、半田に似てるなって思ったんだ。
染岡と並んで話してる後姿なんて、本当半田を思い出すよ。すごく半田に会いたくなった。
半田に会いたい。
早く宇宙人に勝って、半田に勝ったよって報告したいよ』


俺はそのメールを表示したままのケータイをぱたんと閉じた。
布団を被ってるから、ケータイの明かりが無くなって真っ暗になる。
真っ暗で、俺の熱が篭ってちょっと暑いぐらいの布団の中でなんだか俺の思考がちゃんと働いてるのか分からなくなってくる。
一之瀬のメールにどんな反応をしていいか分からなくなる。
どんどん布団の中に熱が篭って、頬が熱くなる。

だってさ、普通こんな風に書く?
俺の友達にはこんな風に書いてくるヤツなんか今まで居なかったぞ。
一之瀬がアメリカ人だから?
アメリカではこれが普通なのか?
一之瀬は誰にでもこんな風なメールしてるのか?
離れて、メールのやり取りをきっかけに一之瀬と仲良くなった俺にはそれさえ分からない。

一之瀬はこんな風に時折俺を困惑させるメールをしてくる。
俺はそれにどんなメールを返していいか分からない。
いつもそのリアクションに困る部分だけをスルーして返事をしてしまう。
なんて返そうか悩んでいる内に、先に一之瀬からメールが来てしまう事もある。
だからそのリアクションに困る一之瀬のメールはすぐ無かった事になって、俺達のメールのやり取りは続いた。


でもそれは「無かったふり」で、「無かった」事になんかならない。


布団の中は茹だるぐらい熱い。
この熱が全部一之瀬からのメールのせいって凄くないか?
俺はまたケータイを開いてみる。
布団の中が明るくなって、一之瀬の恥ずかしい文章と吹雪ってやつの頭の上の方だけがケータイに表示されてる。

――俺に似てるかな?

その吹雪の写真は、珍しい髪の色や俺よりもクセの強い髪質をしていて、自分では似ているようには思えない。
俺に似てるなんて一之瀬はきっと目が悪いに違いない。
しかもそれをこんなストレートに書いてくるなんて一之瀬は少し頭のネジが緩んでるに決まってる。

そう思うのに、新メンバーが入っても俺の事をすぐ思い出してくれる一之瀬が嬉しくて、俺の頬はまだ熱いままだ。


俺は布団を被ったまま一之瀬にメールした。

『似てないよ、馬鹿!早くちゃんとした写メ寄越せ!!』

入力した文字を見てホゥっと一息。
それからメールの送信ボタンを押して、ケータイをぱたんと閉じる。
また真っ暗になった布団の中で、俺はそのケータイをぎゅって胸のところで握りしめた。


一之瀬からの恥ずかしいメール。
俺はそれが嫌じゃない。
それどころか少し、うん、ほんの少しだけ。
嬉しいって、思ってる。

これ、俺の二つ目の誤算。
最大級の誤算だった。


 

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