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一之瀬かぁ…。

俺はケータイに表示されたアドレス名をマジマジと眺めてしまう。
さっき次々とメールを送ってた時、メールしようか悩んで結局メールしなかった相手。
メールしようとしたけど、メールの内容が何にも思いつかなくてメール出来なかった相手だった。

今だって、一之瀬がどんなメール送ってきたのか想像だって出来ない。


実はさ、一之瀬からのメールがちょっとくすぐったい。
どっかで困惑もしてるけど、一之瀬の方からこうやってメールくれたのが嬉しいって気持ちも同じぐらいある。
なんだろう、この前喧嘩しちゃったからかな。
俺、最近じゃあんまり友達とマジ喧嘩ってして無かったし。
しかもこの前のは俺が一方的にキレちゃっただろ?
ぶっちゃけ一之瀬に言われた内容は今でもムカつくけど、一之瀬は一応俺を気遣って謝ってくれたんだし。

俺の方が悪かったよなって思うから、困惑もするし、ホッともしてしまう。


そんなこんなで俺は、一之瀬からのメールを一拍、いや三三七拍子ぐらい置いてから開いてみた。
ぱっと目に入ったのは土門の顔(プラス変なポーズの手付き)
それから申し訳程度に添えられた短い文章。

『土門が眼鏡掛けるって知ってた!!??』

その「!」「?」がいっぱい付いたメールに俺は小さく吹き出してしまう。
知ってるも何も、俺、土門と同じクラスなのに。
寧ろお前が知らなかったことに驚いてるっつーの。
俺は反射的にツッコミメールを返す。


『普通に知ってる。だって俺同じクラスだもーん』

『ウソ!!??』

さっきと同じぐらい感嘆符と疑問符のついた短いメールがすぐ返ってくる。
一之瀬のリアクションの大きさに、俺が一人でほくそ笑んでいるとまたすぐ俺のケータイがメールを受信する。


『じゃあじゃあ土門が頭イイの知ってた!!??』

また同じぐらい感嘆符と疑問符いっぱいの一之瀬のメール。
全然デコってもないし絵文字もないけど、会話みたいに早いレスポンス。
俺も同じような素早さでメールを返す。

『当然(えっへん。』


そう俺が送ると今度はすぐには返事は返ってこなかった。
それでも俺はもう売店に行く気にはなれなくて、病室のTVを点けた。
平日の午前中のTVなんてまだ朝の主婦向けの情報番組ばっか。
役に立たないって訳じゃないけど、ケータイがメールを受信したらすぐ興味が移る程度の情報がTVから流れ出す。
こう言っちゃなんだけどメールを待つ間の繋ぎに丁度いい感じの番組だった。

なんか、俺、一之瀬とのメールが楽しいみたいだ。

俺はテンポの良いメールの応酬だけで、さっきまでの戸惑いも安堵も嘘みたいに一之瀬からのメールを待っていた。
たったそれだけで、一之瀬との喧嘩っていう心の壁は簡単に崩壊してた。

少なくともケータイのストラップを弄りながらTVを見てしまうぐらいには。



一之瀬からのメールは結構すぐきた。
百均のS字フックでどんな驚きの収納グッズが出来るか判明する前には。
俺は当然その答えより一之瀬からのメールを優先した。


『じゃあじゃあ栗松が英語にはヤンスを付けないって知ってた!?』

あちゃー、一之瀬からの情報もS字フックの収納グッズと同じくらいどうでもいい情報だった。
でもメールが来るまでの間、一之瀬が俺を驚かせようとしてこのくだらない情報を一生懸命探してたかと思うとS字フックなんて目じゃないくらい可笑しかった。


『じゃあじゃあ壁山も英語にはッスって付けないって知ってた!?』

しかも俺の返事より先に同じくらいくだらない情報を被せてくるし。
もう合わせ技一本って感じだった。

…なんだよ、楽しくてちょっと電話したくなっちゃうじゃないか。


『どこで仕入れたんだよ、そのくだらない情報。
ってか、今何してんの?』

分かり易い俺の探りメール。
それに一之瀬はさっきみたいに時間を掛けることなく、すぐ返信してくる。

『キャラバンで強制勉強中。新しい監督は容赦ないよ。
ちなみに土門は俺のプリントを代わりにやってる』

…そっか。
じゃあ電話したらヤバいよな。

土門にやらせるなよっていうツッコミより先に、そんな感情がふっと自然に湧いていた。
ちょっと残念がってる自分を自覚しながら、せっせと一之瀬に返事を打つ。
電話は無理でも、勉強の邪魔してると分かっていてもこのメールの応酬を終わらせるつもりは無かった。


『お前は何やってるんだよ?』

『一年二人に英語の質問されてた』

役に立たない情報の出所は漸く判明した。
なんて返そうかなって俺が考えてる間に、一之瀬からメールがくる。


『それと半田とおしゃべり←こっちMain』

へへ、そっか。こっちがメインなんだ。
俺もTVよりこっちがメイン。

なーんて、その一之瀬のメールに俺がニンマリしてしまったのは内緒だ。
だってさ。
容赦の無い監督に強制勉強、それから可愛い(?)後輩の質問より俺へのメールを優先してくれてるってちょっと嬉しいだろ。
本当はよくない事なんだろうけど!


それから俺達は長い間メールをやりとりしていた。
気付いたら情報番組は司会者を変えていたぐらいに。

そして、俺は百均で出来るお得収納情報は一個も覚えられなかったけど、
一之瀬とのメールが想像以上に楽しいって事と、
栗松も壁山も英語にはいつもの口調を付けなくとも和訳にはばっちり付けることは知った。


 

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