2、Side H 1



2、SIDE H





「あー、暇、めっちゃ暇!つーか、暇だぁ!!」

俺はさっきまでマ○オカートをしていた3DSをベッドに放りだす。
断っておくが決して宍戸に負けたからって訳じゃない。

「うっわ、負けたからってそれは無いんじゃないんですか?
まだ三戦しかしてないじゃないですか」

でも、対戦していた宍戸も唇を尖らせて言ってくる。
くっそー、宍戸も俺が負けたから暇って言い出したと思ってるな。
まあぶっちゃけ、これだけコテンパンにされるといくら面白いソフトだろうが面白くないっつーの。
折角アイテム取っても姿形も見えない程、先に行かれたらどうしようもない。
てかさ、一回もコースアウトしないのが普通なのか?
アレ、俺ってもしかしてマリカ下手?


「ゲーム出来るだけいいじゃないですか。
俺なんて怪我が腕だから何をするのも辛くて」

俺が自分のゲームの腕前に疑問を抱いていると、傍でみているだけだった少林が言ってくる。

「でもお前は移動が楽じゃん」

フォローって訳じゃないけど、俺は俺以上につまらなそうな少林にそう言った。
俺よりも早くサッカーボール蹴れるようになるじゃん、て本音はぐっと飲み込んで。
そんな事言っても、少林も俺も置いていかれたって時点で一緒だし、空気が悪くなるだけだ。


「そーそー。
それにこっそりボールも蹴れるし」

って、俺が口にするのを憚った事を宍戸が普通に言っちゃってるし。
あーあ、宍戸の馬鹿。
皆がさり気なくサッカーの話題は最小限に抑えてるの気付いてなかったのか。

案の定少林の顔が少しだけ暗くなる。


「そう言えばイナズマキャラバンって今、どうなってるんですかね?
豪炎寺さんがキャラバンを降りたってのは連絡きましたけど」

「んー、俺達には降りたって連絡が来ただけだからなぁ。
豪炎寺さん、こっちに戻ってきてるんですかね?」

おいおい、宍戸のヤツ、ちょこちょこ失言してるなぁ。
なんだよ「連絡が来ただけ」って。
その言い方だと俺達がすっかり蚊帳の外みたいじゃんか。
宍戸の空気読めなさ具合に、思わず苦笑が零れる。


「戻ってはいないだろうなぁ。
戻ってきてたら夕香ちゃんのところには必ず来るだろうし。
染岡から聞いたんだけど、アイツらも豪炎寺がどこ行ったか分かんないらしいぞ」

ふう、俺って一人だけ先輩なくせにさっきからフォローしまくり。
マリカは下手でもフォローは上手いって?
んー、それって微妙。

あ、そうだ。
染岡にでもメールして今アイツらがどうなってるか訊いてみるか。暇だし。


俺はこれ以上、宍戸が変な事言い出す前に自分のケータイでメールを打ち始める。
でも、それぐらいじゃ宍戸の今日の流れを止める事は出来ないみたいだ。
俺がせっせとメールを打っていると、宍戸は何かに気付いたみたいに訊いてくる。

「行方不明と言えば、影野さんとマックスさんはどこ行ったんですかね?
二人して出て行ったっきり戻ってきませんね」

あ〜…、そうきたか。
宍戸の三度目のアイタタ発言に思わずケータイを持つ手に力が入る。
良かったぁ、メール打ってたから下向いてて。
顔見られてたらヤバかった。
俺は内心はヒヤヒヤしながら、これ以上追及されないように顔も上げずにどうでもいい事っぽく答える。


「さあー?
どうせロビーあたりで知り合いにでも会ったんだろー」

うん、未だに学校破壊された時に怪我した生徒が沢山通院してるし、我ながら手ごろな言い訳だろ。
ったく、なんで俺がこんな事しなきゃなんないんだよ。

本当はあの二人は付き合っていて、それを知ってる俺に後を任して二人でどっかに消えている。
それが俺が暇してる原因の一つでもあるのに、
こんな風に二人の関係がバレないようにフォローもしてやるなんて俺ってば本当お人よしだよな。

でも流石にこれ以上突っ込まれたら面倒臭いんで、俺は宍戸から離れてベッドに寝転ぶ。
うつ伏せになってメールを打てば、後ろから宍戸と少林が同じ学年の友人たちの怪我状況というすっかり違う話題で話始めたのが聞こえた。

あーあ、なんだか俺も同い年の友達と話したくなってきた。
マックスと影野、早く帰ってこないかな。


なんだか今まで以上に暇さ加減が身につまされた俺は染岡にメールを打った後、思いついた順に次々とメールを打った。
円堂に風丸、行方不明の豪炎寺。
それから同じクラスの友達に、土門、一番キャラバンの状況に詳しそうな鬼道。
目金にまで昨日初めてみた、怪我さえしなけりゃ番組が終わるまで見ることは無かったであろう夕方のアニメの感想を送る。
これだけ送ればいくら平日の午前とはいえ一人ぐらい即レスしてくれるヤツがいるだろ。

と、思ったのに俺のケータイは中々反応を示さない。
くっそー、キャラバンは俺に返信する余裕もないぐらい忙しいんですか!?
羨ましいぞ、コノヤロウ!

俺はメールを受信する気配の無いケータイをさっきの3DSの隣に放る。
それからベッドに起き上がって伸びをして、「あー、気分転換に売店でも行こっかな」なんて考えていた時だった。
俺のケータイがぶるぶると震えだす。
俺は急いで、まだ震え途中のケータイを手に取る。
俺が手に取るとすぐ止まった震えは、メール受信を教えていた。
誰からだろうと、俺はちょっとワクワクしながら受信ボックスをチェックする。
一番にメールしてくれた相手が、やっぱり一番俺との友情を大切にしてくれてる気がするもんな。
たまたまかもしれないけどさ。

でも、そこに表示された差出人の名前は予想外の相手だった。


「アレ?一之瀬からだ」

思わず漏れた独り言。

俺に一番先にメールをくれた相手。
それはさっき俺がメールを送らなかった一之瀬からだった。


 

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