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「そうか…!
そうだ、電話すればいいじゃないか」

半田の姿ばかりが頭を占めていた俺は、そんな当たり前のことさえ思い浮かばなかった。
俺は旅行用の大きなバッグに入れっぱなしだったケータイをごそごそと取り出す。

取り出してみると、ケータイは着信を告げる光をチカチカと放っていた。

誰からだろう?
俺は半田への電話に気もそぞろのまま、それでもケータイの受信ボックスをチェックする。


そこにあったのは『半田』の文字。


入部してすぐ教えてもらったっきり一度も目にしたことのなかった表示だった。
一気にそのメールが俺の中で重要度を増していく。
急いでメールを開くと、件名は『隠れミッキー』
は?
隠れミッキー…?
昨日の半田の姿と件名が結びつかない。
本文には『隠れミッキーを発見!これどこだか分かるか?』っていう短い文章と変な写メ。
なんだこれ?
本文見れば意味が分かるかと思ったのに、もっと意味不明になっただけだった。
写メには明るい茶色のくりっくりの毛みたいのの中に小さいまん丸の禿が三つ並んでる。
その禿がミッキーに見えなくもない。


「なあ、これどういう意味か分かる?」

「ん?どれどれ」

俺はその半田からの写メを土門に見せる。
その途端、ぷっと吹き出す土門。

「ぷはっ。なんだこれ、宍戸の頭に禿三つもあんのか!」

宍戸?
もう一度写メを見ると、そう言われれば宍戸の髪の毛はこんな色のアフロだった気がする。
でもこんな写メが昨日の今日で半田から回ってくる意味が分からない。
俺が土門に半田の真意を問おうとして顔を上げると、土門が持っていた俺のケータイは反対側の席の染岡に取られていた。

「なんだよ。宍戸がどうしたって?」

「あ、これこれ!見てよ、これ!!
半田から来たんだけど、宍戸のアフロって実は禿隠す為だったみたい」

土門と染岡の会話に、一気にキャラバンの中は半田からの写メに話題が集中する。
俺のケータイは土門から染岡へ、そして一年が後ろから覗き込み、円堂の手に渡って、どんどん俺から遠ざかっていく。

…俺だけじゃなく皆も暇だったみたいだ。

戻ってこないケータイに俺は一人溜息を吐く。
電話、早くしたかったんだけどな。


「良かったじゃん」

それなのに土門は、不貞腐れて椅子にぼすんと凭れた俺にそんな事を言ってくる。

「…何が?」

何が良かったんだ。
早く電話したいのにケータイはキャラバンのどこら辺を回ってるかさえもう分からないっていうのに。
俺は不機嫌そうだってのに土門はそんな俺にニッと笑う。


「電話。
しやすくなっただろうが」

「え?」

「ちゃんとメールだって疑問系になってただろ?
答えて欲しいってことじゃんか」

あ…。
俺は土門に言われてその事に初めて気付いた。
あのメールは半田からの「怒ってないよ」のサインだ。
馬鹿な写メも、疑問系も俺から電話しやすくなるようにっていう半田の気遣い。

もう、一刻も早く半田に電話したくてしょうがない。


「土門、ケータイ貸して」

「あいよ」

俺は受け取った土門のケータイで短縮に入ってるだろう半田のナンバーを呼び出す。
機械的な呼び出し音さえじれったい。


「もしもしー?」

「あっ、半田!俺!一之瀬!!」

繋がった途端、俺は一気に話し出す。
なんだか自分でも前のめりになってるのが分かる。
さっきまであんなに重かった気分が今では果てしなく上がってる。


「えっ、アレ、一之瀬?土門じゃないの!?」

「うん、土門から借りた。
俺のケータイ、今、キャラバンの中廻ってて戻ってこないんだ。
宍戸の禿を皆も見たいって」

「あー、アレすぐ分かった?俺も今日見つけたばっかなんだぜ。
今日の朝、宍戸のヤツすっげー寝癖でさ。
んで、アフロの隙間からばっちし禿が見えてんの!
なんでも枕が違うと寝辛くって、寝癖ついちゃうんだってさー。アホだよな!」

なんでだろ?
アハハって笑う半田の声だけで、なんだか胸がほわほわする。
いつまでもこの声を聞いていたい。


俺が気付かないだけで半田は、俺に出来ない事を沢山出来るヤツだった。
確かにサッカーは俺より下手だけど、俺には真似出来ないような気遣いが出来る。
こんな風に笑って人を許す事が出来る。
人の心を軽くする事が出来る。

すごく強い人だった。


「半田」

「ん、何?」

電話の切り際に俺は半田の名前を改めて呼んだ。

「昨日はゴメン。無神経な事言ったりして」

「ん、いいよ。
俺も酷い事言ってゴメン。
……勝てよ、宇宙人に」

半田はそう言って、俺の言葉を待たずに電話を切った。
通話が終わっても、俺はそのままケータイを耳に当て続けた。
ケータイは何の音もしないはずなのに、トクントクンって遠くで俺の心が動き出した音がする。


もっと、もっと半田と話したい。
半田の事が知りたい。

自分でもびっくりするぐらい、半田に興味が湧いていた。



 

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