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「はーっ」

これ、もう何回目の溜息だろう。
宇宙人を倒すという目的があるイナズマキャラバンも、移動中は流石に何もする事がない。
奈良に着くまでは、ただこうやってキャラバンに揺られているしかない。
こんな時、サッカーでも出来れば気も紛れるのに。
それさえ出来ないなんて、ツイてない。


俺の頭を占めるのは、病院の通路に倒れても俺を睨み続けた半田の事。


まさかあんなに怒らせてしまうとは思ってなかった。
半田が看護師さんに病室に連れ戻された後、俺は違う看護師さんに捕まり、
怪我したばかりの病人を興奮させるなんてとこっ酷く叱られた。
そして一しきり説教をくらうと、そのまま面会時間の過ぎた病院を追い出された。

当然、半田に謝る隙もない。

しかも次の日、イナズマキャラバンの出発時間は面会開始時間よりも早かった。
最初の試合に間に合わなかった俺は、このキャラバンに乗り遅れる訳にはいかない。
半田への謝罪と、キャラバン。
比べるまでもなく、俺は半田への面会を諦めてこのキャラバンに乗り込んだ。


「はーっ」

そこまで思い返すと、気づいたらまた溜息を吐いてしまっていた。
いくらキャラバンの方が大切だって思っていても、半田を放置したままなのは気が重い。

でも、離れてしまった今、俺はどうしたらいいか分からない。


「なんだ、まだ気にしてんのか。お前にしては珍しいじゃんか」

一定間隔で溜息を吐き続ける俺に、隣に陣取った土門がからかうように言ってくる。
なんだよ、「お前にしては」って。
まるで俺が人でなしみたいに聞こえる。

「まさかあの半田があそこまで怒るとは思わなかった。
俺、そんな酷い事言ったかな?」

「お前なぁ。
寧ろあの半田にあのタイミングであんな事よく言えたなと思うぞ、俺は」

昨日の事情を聞いて既に知っている土門は、呆れたように言ってくる。
昨日も話した直後に「馬鹿だ。お前めっちゃ馬鹿!」と散々呆れられた。


「いくら半田が笑ってたって、怪我して悔しいに決まってんだろ。
あの円堂だって空気読んで何も言わなかったってのに、お前はそんな半田に
『俺が居なかったせいで弱い半田を試合に出させてゴメンね』
なんて言ったんだぞ。
どう考えたって馬鹿だろ。
それも世界に轟く大馬鹿」

「そこまで言わなくても…」

土門の遠慮の無い言葉に、言われたのは自分だっていうのに思わず苦笑が零れる。
土門はそんな俺にまだ追い討ちをかけるように責め立ててくる。


「いーや、お前は分かってない!
そもそもお前、半田が後から入部したお前にポジション奪われたのがどんだけ悔しかったか想像した事あるか!?」

「いや、ないよ。
だってそれは仕方ないじゃないか。
俺の方が半田より巧いんだし」

土門の言葉に俺は頭を傾げてしまう。
ポジション争いで相手の心情を考えるとか、意味の無い行動をなんでしなきゃいけないんだ。
そんな事考える暇があったら、サッカーの練習をしてもっと巧くなった方が百倍も有意義だ。


「お前なぁ、そこを思いやってこその部活だろーが。
こう『ポジションを競い合った相手の分まで頑張るよ!』ぐらい言うもんだぞ、日本では」

「そうなの?」

「そうなんだよ!!
学校の部活だぞ?それぐらいの気遣いが無いと殺伐とすんだろうが」

「でも俺、特に何も言ってないし半田とも殆ど話してもいなかったけど殺伐としてなかったよね?」

ここまでくどくどと怒る土門が不思議で、俺は疑問の声を挟んだ。
半田を怒らせた話から関係ない土門にまで怒られてるのはなんでだ?

「だーっ!だからそれは半田がそうしてたんだろ?
転校生のお前に気を使ってたんだよ。
分かれよな、それぐらい」

「そうなの?」

「そうなんだ!!
まったく、半田はそれこそサッカー部を立ち上げた時からのメンバーだろ?
ぽっと出の転校生にレギュラー盗られて、しかも今度は怪我で留守番だろ?
よく俺らに笑ってみせたと思うぞ、寧ろ。
お前はさ、そんな半田の我慢を台無しにしたんだよ、考えなしの一言で!」

「そう…かな?」

土門の言葉にまた昨日の半田の姿が思い浮かぶ。

悔しくない…って事はないよな。
怪我だけじゃなく、今までもあんな風な思いをずっとしてて、それでも半田はずっと笑っていたのかな…?
どう考えたって笑ってたのが建前で、アレが本音だ。
今まで誰にも見せなかった本音を、俺が自分の後悔を軽くするためだけに暴いてしまったんだ。
そう思うと、今まで以上の苦い思いがぐぐっとこみあげてくる。


「謝りたいな…」

ぽつりと出た言葉。
それは素直な心からの言葉だった。

「お前な…。
下手に謝ると、また昨日の二の舞になるぞ」

確かになんて謝っていいか、何を話せばいいかさえ今の俺には思い浮かばない。
それでも…。


「それでも俺は半田と話したい」


俺がきっぱりとそう言うと土門はハーッとわざとらしく溜息を吐いた。
それからぽんぽんと偉そうに俺の頭に手を置いた。
…これ、セットが崩れるから好きじゃないんだけどな。


「相変わらず頑固だね〜、お前は。
ま、いいんじゃないの。溜息ばっか吐いてるよりは」

そう言うと、土門はニッと笑って俺のバッグを指差した。

「電話、してみりゃいいじゃん。半田に」



 

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