豪炎寺



「あっ、あれ半田達かな?」

待ち合わせ場所で人影にちらちらと見切れて遠くの方にいる半田らしき人物を目ざとく見つけてマックスが呟く。

「ん〜、一緒にいるのは豪炎寺っぽい。
うはっ、相手が豪炎寺って本当どこまでベタなんだ半田ってば」

「…でも半田らしいよ。
だってなんだかんだで豪炎寺が一番頼りがいあるし、なんと言っても格好いいし」

半田の彼氏が豪炎寺だという事を笑ったマックスに、影野は半田の為にフォローの言葉を口にする。
だが、その途端マックスはぷぃっと帽子を目深にしてそっぽを向いてしまう。


「…仁まで豪炎寺の事褒めなくてもいいのに」

「…あ、あのね…だって…半田にとっては…そうでしょ?
俺は…その、あの…だから、その…マックスが…」

「マックスが?」

「…い、…ちばん、だから…」

影野がしゅうーっと湯気を噴出しながら小さな声でそう口にする。
するとすぐさまにーっと笑ったマックスが影野に抱きつく。

「ごおかーく!今確かに仁の愛を感じたよ!
もおっ、ボクも仁が一番だよ!」

「う、…うん!」

往来の真ん中で自分達の世界に入り込んでいるマックスと影野。
だから気付かない。
すぐ後ろまで半田達が来ていることに。


「…何やってんだお前ら」

半田の呆れた声にマックスが平然と、影野は真っ赤になって振り返る。

「いやー愛の確認作業?…って、何ソレ!?」

振り返ったマックスは眉を寄せてソレを指差す。
遠くでちらちら見えてた時には気付かなかったソレ。
・・・半田と豪炎寺の間にいる豪炎寺の幼い妹夕香を。


「豪炎寺夕香です!
マックスお兄ちゃんだって入院中よく会ったから夕香の事知ってるでしょ?」

元気に礼儀良く挨拶する夕香をマックスは軽く無視する。


「ねえ、よりどりみどりな豪炎寺が半田を選んだ理由ってまさかコレじゃないよね!?
可愛い妹が一番懐いてるのが半田だからとかじゃないよね!?」

マックスが夕香の頭に手を乗せて豪炎寺に問いただす。
だが、豪炎寺はその質問には答えない。

「…手をどけろ」

ただ不機嫌そうに夕香の頭にあるマックスの手を退かす。
どう見ても図星にしか見えない。


「うわ〜…、何その『再婚相手は子供の事を何より大切にしてくれる相手ではないと』っていう子煩悩なバツイチ男性みたいな理由。
半田は本当にそれでいいの!?」

マックスは今度は半田に問いただす。
いくらなんでも友人としてこれは見過ごせない。
だがマックスが珍しく本気で半田のことを心配したっていうのに、
半田はむしろ嬉しそうに笑った。


「勿論!
だってさ豪炎寺って本当に大切にしてくれてるんだぜ!?
明らかに特別扱いっていうか…。
でもそれが自然でわざとらしくないし。
なんかこう、くすぐったくって、でも心がほんわかすんだ。
それにさ!夕香ちゃんがマジですっげー可愛くってさぁ。
一気に二人も恋人が出来たみたいなんだ。
もう俺のお姫様って感じ!
あっ違った、『俺達』のだった」

なっ!と半田が笑いかけると、豪炎寺は半田だけに向けて蕩けるような笑みを浮かべた。
そして傍らの夕香を抱き上げる。

「そうだな」

「だあああー」

その甘ったるい雰囲気をマックスが慌てて両手で大きく振り払う。


「もうっ!そういうのは家でやれっつーの!
まったくこっちはいい迷惑だよ」

――自分が聞いたくせに…。

いい雰囲気を邪魔されて半田はむっとしてマックスを睨む。
でも、そんなことを気にするようなマックスではない。
そそくさと影野の手を取ると、帰り支度を始める。


「あー、馬鹿らし。
ボクには一家団欒を邪魔する趣味はないから、あとは三人で勝手にやって。
ダブルデートはおしまーい」

じゃーねーと後ろ手で手を振ると、振り向く事もせず帰ってしまう。
マックスに引き摺られている影野が申し訳無さそうに半田達に手を合わせている。


「…なんなんだよ、全く」

その姿に半田が呆然と呟く。

「まあいいじゃないか。…俺達はどうする?」

「夕香、新しくできたカフェ行きたーい!なんかねケーキがすっごい可愛いんだって」

「えー、俺も行ってみたい!」

「じゃあ決定だな」

無邪気に喜ぶ二人の大切な存在に豪炎寺が微笑む。
マックスの言うとおり、その姿は家族団欒の図にしか見えない。


豪炎寺とのダブルデート…それはダブルデートの割り込む隙もないほどの一家団欒の場でした。


 豪炎寺END

 

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