5



『これでけってーい!もう一枚撮るよー。』

操作しなくても勝手に進んでいく機械。
染岡の言葉を何回も反芻していた半田は、その機械の声ではっとする。

「なあっ、今度のはちゃんとしないと」

「あ!?…ああ、そうだな」

半田が慌てて声を掛けると、染岡も慌てて前を向く。
まだ赤い顔が画面に二つ並ぶ。


――染岡、キスしたくない訳じゃなかったんだ…。

半田の目は自然と画面の中の染岡の顔へと向けられる。

――それにしても…。

じぃーっと画面の中の染岡を見ていたら、画面の中で目が合ってしまう。


「…なんだよ」

「なんでもなーい」

――キス顔だって。染岡の方がリアルに想像してんじゃん。なんか…染岡って実はエロいのかも。

カシャ。

二枚目は少し照れて憮然とした染岡の顔と、同じく照れて笑みを浮かべている半田の顔が並んだもの。


『次が最後だよー。いい顔してねー』

最後ともなると、もう機械の声も余裕の気持ちで聞ける。

「染岡ー。最後くらいちゃんと笑えよな」

からかう様な半田の声に画面の中の染岡は一瞬むっとして睨んだものの、すぐぎこちない笑みに変わる。
その頬を染め、目は全然笑えてないのに、口だけが不自然に上がっている顔が、
あまりに染岡らしくてつい半田は笑いそうになってしまう。

――あ、ヤバ。なんか、すっげー可愛い。

急にふつふつと涌いてくる染岡への愛おしさ。
友達と思っていた時には感じたことも無かった感覚。
それが自分のすぐ隣に染岡らしい変な笑顔が並んでいるのを見た瞬間に、
溢れてきて半田の中をいっぱいにしてしまう。

ちゅ。

カウント3と同時に素早く隣の染岡の頬に口付ける。
凄い顔で染岡が半田の方を向く。


「へへへ、これならキス顔見られないだろ?」

カシャ。

最後の一枚も染岡は結局笑顔では写れなかった。
湯気が出そうな程真っ赤になって頬を押さえる染岡と、悪戯っぽく笑いながらも頬の赤い半田がそこには写っていた。



「ねえ、これのどこがチュウしてんの!?」

二人のプリクラを見て開口一番マックスが言う。
でも実際にほっぺにチュウとはいえ、進展のあった二人は何を言われても全然平気だ。

「大体さー、鈍ちん染岡と奥手半田じゃ、どっちかが覚悟決めてリードしないと何にも始まんないよ!?」

――内緒だけどちゃんと始まってるし。

偉そうなマックスが写真と写真の間の出来事に気付いてないのが可笑しくて、
二人してにやけそうな顔を抑えてそっぽを向いてしまう。


「ボク達は中学生なんだよ!?
一番そういうことに興味ある年代デショ?
君達は好きな相手とシたくないの!?」

マックスの説教が生々しい方向へ向かい始め、二人はぼっと顔を染め、同時にマックスを凝視する。
周りに誰もいないとはいえ、誰が来るか分からないような場所でする話題では無い。
というより、誰も居ない密室でもそんなことまで介入して欲しくない。


「ボク達なんか付き合って一週間でキスまでしたし、一ヶ月記念には初Hだよ!?」

「!!」

思わぬ暴露に半田と染岡はかぱっと口をあんぐり開ける。
背後では未だ壁に向かっていた影野がぴくりと動く。

「好きな相手と付き合ってるんだよ!?
堂々と手を出していいんだよ!?
男ならこうムラムラっとくるデショ!?」

半透明だった影野がどんどん濃くなっていく。
この時点で半田と染岡はヤバいと気付いていた。
だがマックスだけがそんな影野に気付かない。


「ボクなんて仁と二人っきりになったら我慢なんて出来ないよ!?
だって仁てばちょっと触っただけですぐスイッチ入って簡単に声洩らすんだもん」

「!!」

マックスが得意げに言った途端、影野が凄まじいスピードで振り返る。
半田と染岡はその常ならぬ影野の様子に息を飲む。
普段は居るか居ないか分からない影野が、今は目を見張る程のおどろおどろしいオーラを纏っている。
声もなく(マックス、マックス)と必死に合図を送るが、その甲斐なくマックスは更に話を続ける。


「ボクの巧みなリードのお陰で仁てば日に日にエロくなるから堪んないよー。
もう後ろだけでもイケるしね!」

「!!!!」

その瞬間ぶわっと怨霊を一気にばら撒いた影野を見て半田と染岡は思った。

――マックス、終わったな…。と。

だが、次の瞬間二人は自分の目を疑ってしまった。


「…帰る」

影野はそれだけを言うとマックスに大事そうに抱いていたぬいぐるみを押し付け踵を返してしまう。

――そ、それだけ!?

呆気に取られる二人の前で、それでもマックスは珍しく顔の色を無くして慌てだす。

「う、嘘だよ?冗談だってば。ね、仁?じーん!」

そして全く後ろを振り向かない影野の後を必死に言い繕いながら追いかけて行ってしまう。
勿論半田と染岡は一顧だにしない。


「…なんだよ偉そうに言ってても結局影野に頭上がんねぇのかよ」

染岡の呆れた声だけが虚しく響いた。


染岡とのダブルデート…それは奥手な二人へのお膳立て。
と見せかけて影野の羞恥心の限界テストでした。


 染岡END

 

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