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「ここなら大丈夫デショ?
さあ、思う存分撮りたまえ!」

マックスが古いプリクラの機体をとんと叩きながら言い放つ。

「なーにが『撮りたまえ』だ!!」

「えー、まだ不満あんのー?全く我が儘だなぁ」

染岡のツッコミにマックスがまるで染岡に非があるように顔を顰める。



今四人は商店街からやや歩いたショッピングセンターに移動している。
ショッピングセンターというより、都市型の階層式スーパーの一角と言った方が近い、全く洒落っ気のない場所。
そこの片隅にある人気のないゲームコーナーまで、わざわざプリクラを撮りに来たのだ。



先程のゲーセンで、プリクラコーナーに無理矢理連れていかされた染岡と半田は、
女の子成分の凝縮されたその独特の雰囲気に早くも気後れしてしまった。

無理。この中に入るのさえ無理。と。

なんとか暴走しているマックスを止めようとして、辺りを見渡した結果、見つけたのが「女性限定(女性同伴のみ可)」という張り紙。
それを鬼の首を取ったかのように指し示すと、返ってきたのは
「じゃあ周りに誰もいないような場所なら絶対撮る?」との言葉。
それに「おうよ!でも一人でも周りにいたら撮らねーぞ!それと電車で移動もしねーかんな」
と地元のゲーセンを熟知している染岡は啖呵を切ったのだった。



そうして今、自分達の周りには、この階には店員以外自分達しかいないのではないかというくらい人が居ない。

「ボクもさ、さっきまでなら流石に無茶振りが過ぎたかなって反省して止めてたよ。
でも染岡はさっき自分で言ったよね?
『周りに人が居なかったら喜んでチュウプリ撮ります』って」

「そこまでは言ってねー!」

マックスの巧妙にすり返られた論理に、染岡が反論できたのはそこまでだった。
撮ると約束してしまったのは確かに染岡自身。
そしてマックスは約束どおり人気のないプリクラまで連れてきたのだ。
変なところで律儀な染岡はもう反対できなくなってしまう。


「ま、最初はボク達が撮るよ。ボク達だってデートだしね」

論破されぐうっと口篭ってしまった染岡の肩をぽんっと叩いてマックスは影野の手を取る。

「え?」

思ってもなかった展開に影野は一歩後ずさる。

でもそんな控えめな拒否なんて軽く無視され、
え〜……という売られていく弱った子牛みたいな声を残して、マックスに引き摺られてカーテンの向こうに影野は消えていく。
それを半田と染岡は止める術もなく思いっきり同情の目で見守っていた。



「はい、ボク達は撮ったよ!次は半田達の番だから。
逃げるなんてこと、しないよね?」

撮ったプリクラを染岡の胸に押し当てて、マックスはそう言い放つ。


半田と染岡はそのプリクラを二人してまじまじと見てしまう。

――す、すげえ…。

それもそのはず。
そこに写っていたのはばっちりのキスシーン。
マックスの胸を押して嫌がる影野と、カメラ目線でウィンクを決めてるマックス。
その口元はマックスのVサインで隠れてしまって見えないけれど、ばっちりキスしてるのは分かる物だった。
他にもマックスの服を掴んで俯いてしまった影野や、
やりきった顔で影野の肩を抱いているマックスが写っててやけに生生しい。

ちらりと二人がプリクラから顔を上げると、影野は視線を避けるように壁と向かい合っている。
その後ろ姿はいつもより更に存在感が無い。
本人も消えたいと思っているのか、いつ半透明になっても可笑しくないぐらいだ。


――これをやれと…。

もう一度プリクラに目を落とした二人は改めて愕然としてしまう。
でもそんな二人の背中をマックスは容赦なく押す。


「さあさあ早く!
漢なら約束を破るようなことはしないよね?」

二人をプリクラの機体に押し込めるとにっこり笑ってカーテンを閉める。


ついに薄暗い個室に二人っきりになってしまった半田と染岡は、呆然とお互いを見つめあうのだった。


 

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