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「マジで久しぶりだな、こういうの」
チャリンチャリンと機体に小銭を入れながら染岡が呟く。
途端にビカビカと光りだし転がってくるボール。
「前はよく二人で学校帰りに寄ってたもんなっ」
「なっ」
ぼこぼこ二人でボールを的に投げつける。
どかどか増えていくカウント。
それでも1ゲーム終わった時、そのカウント数は前によく来てた頃より大分少なかった。
「うわー、なんか腕鈍ってるな〜」
その残念カウントを見て半田が呟く。
「でも全然息上がってねぇぜ。前よか体力ついたんだな」
「あっ、本当だ」
染岡の言葉に半田は改めて気付く。
一年の頃はゲームが終わった時には多少は息が上がってたのに、
今は全く運動した気にならない。
なんだか本当に少し前までとは環境も自分自身も変わってしまったようで感慨深い。
来ない間に随分と様変わりしてしまったゲームセンター内をぶらつきながら、
ちゃりんと小銭を染岡が手の中で転がす。
なんだか二人でしみじみしてしまう。
こんな気持ちも、半田と染岡の二人だから共有できる。
「一年ん時はまさかこんなにサッカー漬けの毎日になるなんざ思ってなかったもんな」
「言えてるー。
俺なんかサッカーしかしてないから、小遣い使い切んなくて毎月残るんだぜ。
ビックリするだろ?」
「いやいや俺なんざ夜飯食った後、疲れてTV見てる途中で寝ちまうんだぜ。
この前、歌番で出演者が一組しか分かんなかった時は、マジで俺終わってるって思ったもんな」
「あー、ヤバ。それ、俺もだ」
終わってるよなーと、二人で『過酷な部活動で普通の中学校生活終了のお知らせ』トークで笑いあう。
びし。
その時、後ろから二人にチョップ炸裂。
「何、色気の無い話してんの!?」
・・・マックスだ。
二人が振り向くと、そこには腰に手を当てて怒っているマックスと、
マックスに取ってもらったのであろう、UFOキャッチャーの景品にしては大きな熊のぬいぐるみを嬉しそうに胸に抱いた影野がいた。
「今日はデートなんだよ!?で・え・と!
普通にただの部活終わりの中学生にしか見えないから!
ったく、何回も言わせないでよ恥ずかしいなぁ」
訥々と説教かましてるマックスの前で二人は顔を見合わせる。
――いや、恥ずかしいと言われても、まんま部活終わりの中学生だしな…。
――そんなデートって強調されても…。なあ?
テレパシーばりの意思の疎通を見せる二人に、マックスは痺れを切らして更に怒り出す。
「もうっ!そんなんだから未だに手も握れないんだよ!?」
「な、なんで知ってんだよ!?」
マックスの一言に、かあっと一気に顔を赤くして染岡が怒鳴る。
隣の半田も同じスピードで顔を染めている。
こんなところも二人は秘かに息ぴったりだ。
「半田も!
どうせ『これで染岡に彼女出来る事は無くなったし一安心だな』くらいにしか考えてないんでしょ!?
そんなんじゃねー、中学卒業してもチュウも出来ないよ!?
それどころか高校卒業するまでDTだよ!?
このままずるずる友達みたいな関係が続いて、
周りが経験しだして焦る頃には二人とも切っ掛けがなくなっててどうしていいやらって困るのは目に見えてるんだから!!」
どーんとマックスが二人に向かって指を突きつける。
そのまるで見てきたかのような未来予想図は、理不尽に怒られている二人も納得の代物。
半田に至っては今現在の心境まで当てられて内心ビビリまくりだ。
「もー分かった!
ダブルデートまでお膳立てしたのに、何の進展も無い二人には、強制イベント入るから!
デートでゲーセンと言えば何?はい、染岡君!」
「はぁ!?なんだよそんなん知んねぇよ」
急に話を振られた染岡は仏頂面だ。
勿論答えるわけがない。
「残念、答えはチュウプリです。
という訳で、これから君達にはチュウプリ撮ってもらいます。
あっ、言っとくけどこれ強制イベだから。
拒否権ないから、覚悟してネ」
にっこり笑う、その黒さが怖い。
それでも二人は同時に怒り出す。
「はああ!?ふざけんなー!!」
二人に課せられた指令『チュウプリ』――…チュウしてる姿をプリクラで撮ること。
それは二人にとって果てしなく高いハードルであった…。
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