染岡1



「お待たせ〜」

待ち合わせ場所で雑談をしていた染岡と半田は、その声で振り返る。
だが、振り返り、待ち人であるマックス・影野の姿を認めた途端、染岡は脱力してその場に蹲る。
主にマックスの格好のせいで。


「おまっ、なんだよそれはよぉ〜」

染岡が思わず頭を抱えたマックスの今日の格好。
それは可笑しなところは少しもないものだった。

・・・女の子であるならば。


「えっ、何が?」

不思議そうに顔を傾けるマックスの本日のお召し物は、
いつもの帽子に、裾が絞ってある黒のサロペット、それにビーサンと、
頭を除いて随分と涼しそうな格好だった。

「なあ、コイツ普段からこんなんなのか?」

「まあな」

ヤンキー座りで見上げる染岡に、半田は苦笑で頷く。

「今日は色が地味だからマシな方かも」

「マジでか!?」

それでなくてもチャラついたのは苦手としている染岡は、半田の答えに目を剥く。


「えー、何何?何の話ー?
何カップルでいちゃついてんのー?」

そこにわざと空気を外したマックスが乱入。
そんなマックスにとっては挨拶代わりの些細なからかいにも染岡は一気に顔を真っ赤に染める。

「いっ、いちゃついてなんかいねぇだろっ!
てめぇのそのイカレタ格好の事を言ってたんだ!」

照れも手伝って、染岡の強烈な一発がマックスの頭に炸裂する。

「痛ぁ〜っ、何も殴ることないじゃん!
そう言う染岡だって人の事言えない格好してるくせに」

マックスの思わぬ反撃に染岡は思わずたじろぐ。

「な、なんだよ」

「今日はデートだよ!?で・え・と!
近所のコンビニ行くんじゃないんだからさー」

マックスの尤もな指摘に、ぐっと口篭った染岡の本日のお召し物は、
髪の色と同色のタンクトップに、
どう見ても部屋着にしか見えないスウェットのハーフパンツにビーサンと、
これまた涼しさではマックスと同レベルの軽装だ。


「っ、いーんだよ、別に!
半田相手にめかしこむ必要ねぇだろーが」

照れ隠しに言った染岡のその一言でぴきりと場が凍る。

――あーぁ、言っちゃった…。

そう思ったのは一人だけでは無かったはずだ。
言った本人の染岡でさえ、口にした瞬間に後悔が襲った。
言われた本人の半田は推して知るべし。


――そりゃ「好き」って言ったの俺だけどさ、そんな風に言うことないじゃん。

案の定面白くない半田はどんどん膨れっ面になっていく。

FFI優勝凱旋と一気に時の人の一員になってしまった染岡と、
なんだか凄く距離が出来てしまった気がして寂しくて。
しかも染岡のくせにテレビ効果もあってかファンの女の子なんかがちらほら現れるようになって(勿論他のメンバーに比べたらその数は少ないけど)
ある日染岡が女の子から練習後に差し入れを貰ってる姿を見て気がついた。
モテないと思っていた染岡は、
ずっと自分と馬鹿なことして一緒にいると思っていた染岡は、
このままでは遅かれ早かれ彼女が出来て、自分と一緒の時間なんてなくなってしまうってことに。

それに気付いたら、自分の本当の気持ちを悟るのは時間の問題だった。
彼女が出来る前に、自分から離れていく前に、染岡の中の自分を確かなものにしておきたい。
そう思ったから素直に伝えて、
染岡もビックリしつつも、「…おう」なんてはにかんで答えてくれたのに。


げし。

「痛ぇっ」

思い出したら更にむかむかして半田は染岡にけりを入れる。
むき出しの脚にけりが入って、痛そうに顔を歪める染岡に半田はふんっと顔を背ける。

――今日珍しくワックスなんて使っちゃった自分が馬鹿みたいじゃんか。


「まあまあ、野暮ちん染岡はほっといて早く行こー!
久しぶりに部活が半日なんだからがっつり遊ばないと損だって」

頬をぷっくりと膨らまし、分かり易く不機嫌になっている半田の事を、
取り成しているのか、気にしていないのかわからない口調でマックスが言う。
そして影野の手を取ると、くるりと足早に歩きだす。
その背中は…。


「「尻尾ぉ!?」」

やけに露出の高い背中と、何故か着けられているふさふさの尻尾に半田と染岡の声が揃う。
なんだかんだで似た者同士の二人は、声が揃った事でびっくりして目が合うと、
仕方ないヤツだよなって顔で笑い出す。

恋人になってからの時間より友達としての時間の方が圧倒的に長いせいか、
こんなことでも不機嫌な気持ちなんて持続できなくなってしまう。


どか。

今度は背中に強めのパンチを一発入れる。
そしてパンチの入った方をくの字に曲げた染岡ににっと笑ってみせる。


「行こーぜ、染岡!
そう言えばお前とゲーセン行くの久しぶりだな」


 

prev next




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -