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――折角良いところだったのに!
コイツ自分ではっきりさせろって言った癖に邪魔するなんて、どーいうつもりだよ!?

明らかに狙ったようなタイミングに半田はマックスに心の中で憤慨する。
まあ、恥ずかしくってそれを訴える事は出来なかったけれど。


「早く行かないと良い席埋まっちゃうって。
折角デートなのに隣で見れないなんて有り得ないデショ?」

言わなくても心の声が漏れている半田のジト目を物ともせず、マックスはずんずん歩く。

「あっ、そーか。席とか考えて無かった」

マックスの言葉に何気なく答えてから、半田は気付く。


――そう言えば、マックスは今日初めから俺の恋人として鬼道の事をからかっていたのに、
鬼道は不機嫌になっても一度も否定はしなかったっけ。

今だってデートの言葉に何も言わなかった。
半田は鬼道を誘う時に「デート」という単語を決して使わなかったのに。


――もしかして鬼道も最初から俺と付き合ってるつもりだったのかな?


ちらりと鬼道を窺えば、鬼道は何やら影野とお互い謝っているようだった。
思わず聞き耳を立ててれば、「友人想い」とか「大丈夫」とか「ちゃんとする」って単語が細切れに聞こえてくる。
聞こえた言葉は少なかったけれど、そのどれもが優しい響きを持っていて、先程の握った手を思い出させた。


「・・・へへへ」

「うわっ、半田キモ!
一人思い出し笑いって、普通に末期デショ」

「・・・」

――こ・い・つ・はぁ〜…っ!

軽くなら殴ってもいいかななんて半田が思っていると、
「あ、ボク達の番だ」
とマックスはチケット売り場の窓口に向かってしまう。

「学生四枚。Eの9と10。
半田達はどこにする?」

「どこって…」

後から窓口に来た三人が、窓口の上にある電光の座席表を見上げる。
前の方はまだまとまった空きがあるが、中央付近から後ろはところどころにしか空きが無い。
勿論、Eの9と10の隣はもう埋まっている。

「おい!普通は四人で並んで座れる場所選ぶだろーが!」

「えー?前だと首疲れちゃうじゃん」

「おまっ、そんな訳ないだろーが!
今から変更しろっての!」

「やだよーっだ!折角丁度いい辺りの9が取れたのに、移動とかマジ有り得ないって」

「背番号で席決める方が有り得ないっつーの!」

窓口の前で場所も構わず喧嘩を始める半田とマックスの前に、鬼道がすっと割ってはいる。

「Iの14、15で」

そう言うとチケットを受け取り、反対の手で半田の腕を掴む。

「ほら周りの迷惑になってるじゃないか。行くぞ」

ずんずんと堂々とした足取りでチケット売り場から離れる。


「二人じゃ、嫌か?」

マックスや影野に聞こえないように小さい声で訊ねられた鬼道の問い。
それは半田が答える前に、マックスの言葉で遮られた。

「うっは、鬼道も背番号で選んでんじゃん。
たーんじゅーん」




「アイツらも、その、…そうなのか?」

まだ明るい館内で、鬼道が半田の方へ体を寄せて小声で訊ねる。
斜め前方には、先程の慌しい食事では足りなかったのか、
大きなポップコーンを二人で仲良さ気に食べているマックスと影野の姿が見える。
ぱっと見はただの友人同士のじゃれ合いにしか見えないが、
影野を知ってる人間が見れば、マックスの些細なちょっかいにも赤くなってわたわたしている姿は普段の陰気なものとは大分違う。


「・・・」

別に鬼道のわざと暈された質問の意図が分からなかった訳じゃない。
それなのに半田は咄嗟に答えが出なかった。

――今、アイツら「も」って言った。


半田の赤面での沈黙を肯定と取った鬼道は、返事を待たずに言葉を続ける。

「今日は、もしかしてダブルデートだったのか?」

ダブルデートの部分だけ周囲を憚るように小声になったその言葉に、半田は漸くこくりと頷く。

「そうか」


鬼道の素っ気無い返事は、ただの確認の結果。
本当の答えは、暗くなってから握られた手だった。
その瞬間、ただの「皆でお出かけ」が「ダブルデート」へと変貌する。
顔を合わせて、柔らかく笑いあう二人はもう気まずいチームメイトでは無く、恋人同士だった。



映画が終わって、明るくなった時には既にマックスと影野の姿は席には無かった。
マナーモードのケータイを見ると、メールの着信が一件。
メールを確認して半田が呟く。

「先、帰るってさ。本っ当、勝手だよなー」

その顔は呆れた様子なのに、そこはかとなく赤い。
マックスのメールには先に帰るという用件だけでは無く、最後に絵文字いっぱいでこう付け加えてあった。

『上手くいったんデショ?二人きりで思う存分いちゃいちゃしなよ』


「そうか。ではこの後どうする?」

鬼道の言葉に、半田は思わずマックスのメールが蘇る。
ぶんぶんとマックスの言葉を頭から振り払うように首を振る半田に、鬼道は残念そうに言う。

「用があるなら、もう帰るか」

「うっ、ううんっ!暇!超、暇!用なんて無いって!」

勢いよく否定して、半田は一気に赤くなる。
ちらりと見れば鬼道も苦笑を浮かべている。

――は、恥ずかしー!!
・・・でも。

でも、もうこれ以上恥ずかしい事なんて無いかも。
そう思うと、自然と覚悟が決まった。


「暇、だから、…もう少し一緒にいよう?」



鬼道とのダブルデート…それは半田の保護者からの呼び出し?
いえいえ、二人が恋人同士になれた記念日でした。


 鬼道END

 

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