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「おぉー、エスコートだぁー。
よっ!ジェントル鬼道。
もしかして鬼道の半分は優しさで出来てるとか?」

「何を馬鹿な事を。
こんなの人間として当たり前の事だろう」

でもそんな期待も鬼道の言葉ですぐ霧散してしまう。


――当たり前……そうだよな、席、二つしか空いてないんだし。
先に座ったから、礼儀としてしただけだよな。

はぁっ。
席に着きながら半田は溜息を一つ。

鬼道の些細な言動に一喜一憂している馬鹿な自分に呆れ返る。
こんな事で鬼道の気持ちが測れる訳ないのに。
こんな事で鬼道の気持ちが分かる訳ないのに。
それでもどこかで期待してしまう自分がいる。

・・・鬼道があんな事するのは、自分の事が好きだからじゃないか、って。

あー、もう変な期待すんの止めよ。
俺だって目の前に、何しても無抵抗で面倒な事一切言わない女の子が居たら色々するだろうし。

そう思いながら半田はトレイから自分の分のドリンクを取り、ハンバーガーを取り、
少し悩んでからナフキンを自分の前に敷いてポテトを置いた。
それからそのスペースの大分空いたトレイを鬼道の前に来るように、ほんの少し移動させる。
そして鬼道の前にある、自分の分が無くなったトレイを見て、半田は溜息の代わりにハンバーガーに大口で齧り付いた。


その途端聞こえてきたぐしゃりという、物が潰れる音。

「仁!?」

ビックリしたようなマックスの声。
半田が何事だと前を向くと、そこにはへしゃげた紙のカップを持った影野が腕から溢れたお茶を滴り落としていた。

「あ、…ごめん。
俺、ちょっと手、洗ってくる」

マックスから渡された何枚ものナフキンで腕を拭きながら影野が立ち上がる。
唖然としている半田と鬼道を放置したまま影野は足早にトイレへと向かってしまう。


「どーしたんだよ、アイツ!?」

半田は影野が座っていた周辺を拭いているマックスに問いかける。
半田の問いかけにマックスは顔も上げないでテーブルを拭いたまま口を開く。

「多分、仁は半田の事が心配なんだよ」

「え!?」

「半田、今日自分で何回溜息ついたか覚えてる?」

「・・・」

半田が答えられないでいると、マックスは拭き終わったのか二人の方を向く。

「仁は気になっても何にも言えないんだよねー。ボクと違って」

そう言うと立ち上がる。

「ちょっとさー、仁の様子見てくる間に、はっきりしといてよ。
仁ってば半田の事、親友だと思ってるから、半田がうじうじしてると仁まで暗くなっちゃうんだよね。
はっきり言って迷惑」

そこで一旦言葉を切って、鬼道を睨む。

「半田、付き合ってる人居るってボク達にちゃんと言ったよ。
そう思うような事はしてんでしょ?」

そして今度こそ本当に影野の後を追って、トイレへと行ってしまう。


後に残されたのは、気まずい二人。
引いた状態のまま、座る人の居なくなった二つの空席が、否応無く目に入る。

「あー…、何か悪い。
俺のせいでお前まで責められて。
あんま気にしなくていーから」

「いや・・・」

半田の空気を変えようとしたフォローの言葉に鬼道は元々寄っていた眉を更に寄せる。

「お前は俺の事を、友人にちゃんと言っていたのだな…」

厳しい顔して呟いた鬼道の言葉に、半田は一気に心臓を鷲掴みにされてしまう。

「えっ!あっ、えーっと、そのー…。
…ゴメン、迷惑だったよな」

慌てても、もう遅い。
どんなに謝っても、もう遅い。

――俺が鬼道とちゃんと付き合いたいって思ってるって絶対バレた!
ウザいって思われる!調子乗ってるって思われる!
・・・二人っきりで会えなくなるかも。


半田は不安で何かを掴んでいたくて、丁度手の近くにあったドリンクのカップを握り俯く。
それは少し力を込めただけで、簡単に形を歪ませる。
影野の気持ちがなんとなく分かる気がした。


「俺も・・・」

「え?」

暫くたってから鬼道が呟いた言葉は、随分と小さな声だった。

「俺も、お前と付き合っていると思ってもいいか?」

珍しく不安に揺れている鬼道の声。
がばりと半田が鬼道の方を向く。
その視線を避けるように鬼道は壁の方へと顔を少し背ける。

「出来ればお前も、そう思って欲しい」

そして顔とは反対に、鬼道の手がテーブルの下で半田の手と重なる。
初めて繋いだ手。
その手は少し汗ばんでいて、なんだか鬼道らしくないなと半田は思う。
それでも、そんな風に鬼道も自分と同じように手に汗を掻く事が、何だか嬉しかった。

鬼道の言葉に漸く実感が涌いてくる。


「・・・へへへ」

思わず出た笑み。
鬼道は相変わらず壁を向いているけど、握った手に力が込められた気がする。

でも、その手はすぐ離れてしまう。
――タイミング良く響いたマックスの声によって。


「お待たせー!
そろそろ映画始まるから早く行こー。
これは中で食べればいいから、サクっと行くよー」



 

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