2



結局カウンターが多く男臭い牛丼屋より、多少でもデートっぽいファーストフード店へ向かうことになった。

向かう道筋でも、茶化すマックスと応酬しあっている鬼道が先を歩き、
その後を半田と影野が付いて行っている。
さっきから半田は鬼道の後ろ姿しか見ていない。

――あーぁ、こんなんだったらいつもどおりの方がまだ顔見れる分だけマシかも…。

注文カウンターに並ぶ鬼道のドレッドを見ながら、半田が今日何度目かの溜息を吐く。


「半田」

鬱々とした気分でぼうっとしていると、急に名前を呼ばれてはっとする。
慌てて前を見ると、もう自分達の番になっていて、鬼道が半身で半田を振り返っている。

「何かお勧めは無いか?…余り詳しく無いんだ」

「あっ、うん!」

少し恥ずかしそうに小声で囁く鬼道に、半田は寄り添ってメニューを見る。
こんな些細な事なのに、
自分を頼ってくれたって事と、隣に並んでるって事、それと一緒に選んでるってだけで、
低かった気分は忽ち上昇してくる。


「腹減ってるならこれかな?ボリュームあるし。
辛いの平気なら、これ、この前食べて美味しかった。
あっ、でも一番のオススメはこれ!」

触れ合いそうな程近い肩が嬉しくて、
でもあまりの近さに鬼道の方は向けずに、メニューを見詰めてべらべらと勢い良く話してしまう。

「半田、お前はどれにする?」

「ん?俺はこれ!これでコーラのセット」

先程オススメと言っていたのを指差しながら半田が言う。
半田の言葉に鬼道は目線をメニューから店員へと上げる。

「同じものを」

すぐ店員がマニュアル通りに
「はい、○○バーガーのセットをコーラで御二つですね。以上で宜しいでしょうか?」
と注文を復唱していく。
そして瞬く間に用意される商品。

一つのトレイに同じ物が並んで置かれる。

たったそれだけなのに、半田は口の端がつい上がってしまうのを抑えられない。


「マックス達は先に行ったみたいだな」

しかも鬼道は二人分の食事が乗ったトレイをさり気なく持ってくれる。


「同じので良かったのかよ?」

オススメとは言ったけど、まさか自分と全く同じ物にすると思ってなかった半田は、先を歩く鬼道にそう声を掛ける。

「ああ」

「飲み物、好きなの選べば良かったじゃん。
俺、コーラにしちゃったし」

嬉しかったくせに、そんなことぐらいで喜んでるのが恥ずかしくって、つい声がぶっきら棒になってしまう。

「どれも大差ないしな」

「っ!」

前を行く鬼道の顔は後ろの半田からは見えない。
それでも返ってきた答えは、顔を見なくても、
それをツマラナイ問題だって鬼道が思ってるって半田に伝わるものだった。

「…そっか」

途端にまた気分は最低ランクまで落ち込む。
大差ないって言ったのはドリンクの事なのに、
なんだかそんな些細なことで喜んでいた半田自身まで卑下されたみたいに感じる。

それ以上、半田から鬼道に話し掛ける気には、もうなれなかった。


「こっちー」

手を振るマックスの隣には、もう影野が座っていて、
御丁寧に半田と鬼道が並んで座れるように席がとってある。

少しだけ、その並んで空いてる椅子に躊躇してしまう。
でも、躊躇したのは半田だけで、鬼道はそのまま奥の方の席へと着いてしまう。

「ほら」

鬼道は席に座る前に、手前の椅子を引き半田に促す。

・・・自分を待っているように見える。


――隣、座っていいのかな。隣は俺がいいって鬼道も思ってくれてるのかな。

半田はまた都合の良い期待している自分がいるのを自覚していた。


 

prev next




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -