鬼道1



「ふ〜ん…」

半田と微妙な距離感で一緒に待ち合わせ場所にやってきた鬼道の姿を見て、
マックスが面白く無さそうに呟く。

微妙な距離感で、服装も雰囲気もまちまちの二人は、
友達同士にも、ましてや恋人同士になんてまるで見えない。


「へー、半田の相手って鬼道だったんだー。
うわー意外ー。
全然共通点無いのにねー」

マックスがワザとらしい棒読みで言う。
自分達も服装と雰囲気だけなら凄っいチグハグなのを棚に上げて、
マックスは半田達の事を皮肉っている。


「ねえねえ馴れ初め教えてよー。気になるー」

マックス必殺の無邪気を装っての悪意ある質問が炸裂する。
にこにこしながら鬼道に訊く様子は無邪気そのものなのに、
心の中ではなんて答えるか見ものだなーなんて意地の悪い事を考えている。

「お前には関係無いだろう」

そんなマックスの心を敏感に察知した鬼道は答えることなく吐き捨てる。
苦々しいその鬼道の様子に、半田は少しだけ俯く。

――今日のダブルデート、やっぱり鬼道には迷惑だったのかな…。


今日のダブルデートを鬼道に提案する時も、半田は恐る恐るだった。
ダブルデートって単語も使わず、ただ皆で出かけようって言葉で誘った。

だって半田達に人に話せるような馴れ初めなんて存在しない。
本当に付き合っているのかさえ、半田には正直なところ半信半疑だった。


鬼道が反則的な手法で雷門に転校してきた当初、
真っ先に噛み付いた半田の事を鬼道はさり気なく気にしていた。
半田だって鬼道が自分の事を気にしてる事に気付いていた。
でも半田は試合の最後の握手ですっかり諍いは解消されたと思っていたし、
自分を気にしてる割りに特別なアクションを起こさない鬼道にどうしていいか分からなかった。
微妙な距離感が続き、二人っきりで作業する時はいつも気まずかった。
いつでも半田は鬼道の気配を探っていたし、二人きりになることも極力避けていた。
鬼道といると落ち着かないし、変に居心地が悪い。
だからかもしれないが、久しぶりに偶々二人で部室の掃除をする事になった時、意味も無くドキドキしてしまった。
鬼道も半田を気にしてる癖に、特に何も言ってこないから余計変な空気になる。
それら全てが何故だかイライラして気付いたら、
古く雑多な部室で些細なことで半田は指に怪我をしてしまった。
ほとんど無視に近いぐらいだった癖に、鬼道はすぐ心配そうに半田の傷を見て、
ほっとしたように笑ってから、
そのまま血の出ている指を銜え、
そして目を見開いて固まっている半田と目が合った瞬間に真っ赤になった。
その世にも珍しい鬼道の赤面に頭の中まで固まってしまった半田に、
一生懸命、春奈がとか、昔の癖でとか言い訳した鬼道は、
何故かそのまま最後に少し押し黙った後、半田の唇を掠めるようにそっと自分の唇で触れてきた。
半田も何故か避けなかった。

「…これも昔の癖?」
「…ただ、なんとなく、だ」

それ以来、何故か二人きりになる機会が増えて、
そして何故か二人きりになると口唇を交わすようになっていた。

二人は会話のあまり無いまま、その無い会話を埋めるように先を急いだ。
ただ既成事実だけが積み重なって、
半田の中に伝えられないままの気持ちが増えて、
今、微妙な距離のまま、このダブルデートに誘われるままに来ていた。

・・・これが何かの切っ掛けになればいいと思いながら。


――でも、誘わなきゃ良かった…。

半田は隣に居る鬼道をちらりと窺いながらこっそりと溜息を吐く。

隣に居る鬼道は、ただ隣に居てくれるだけ。
楽しそうでもなければ、嬉しそうでも無い。
それどころか不躾な質問に不機嫌そうな顔をして、マックスと話している。
半田とは挨拶とほんの少しの会話をしただけ。
マックスとの方がよっぽど会話が弾んでいる。


不機嫌そうではあるが、弾んでいる二人の会話から視線を逸らし、半田は俯く。
・・・そんな半田を心配そうに見詰める影野に気付かないままに。


そんな二人にマックスのからかいを含んだ声が掛けられる。

「ねー、鬼道ってファーストフードも牛丼チェーン店も入ったこと無いんだって!
ブルジョワ鬼道にどっちの庶民の味を教え込む!?」

「どうしてお前はそんなに偉そうなんだ!
庶民の味を知っているのがそんなに偉いのか!?」


半田はそれに笑顔で応える。
心の中では、
「なんで鬼道は俺以外の人間と居る時の方が自然で楽しそうなんだろう」
と、思いながら。


 

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