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「ふぅーっ」
ところ変わって、ここはカラオケの一室。
あの後、限界までポテトを頬張った半田は、必死の思いで三人分のポテトをマッハで咀嚼してファーストフード店を逃げるように出てきたのだ。
自分の分の飲み物をくれた影野の優しさが身に沁みた。
でもその後、
「あー!一人だけ間接キッスなんてずるぃー!!」
と騒ぎになり、また半田(+秘かに影野)の心労を増やしただけだった。
そんなこんなでカラオケに落ち着いた頃には半田のHPは既に黄色を通り越してオレンジに近かった。
「ねえ半田は何歌う?」
隣に座った一之瀬が楽しそうに訊いてきても、
いつもだったら一緒に検索するのにその元気もない。
「最後でいー」
それだけを言って、ぐったりとソファに寄りかかる。
「俺、日本でカラオケするの初めてだよ」
「…俺も初めて来た」
「んじゃ、初めて記念で一之瀬に一番譲るよ〜。
仁は一番だと緊張しちゃうだろうしね」
半田はソファに寄りかかりながら、先程までと違って和やかムードで機械を操作している三人を見て秘かに思った。
――最初からカラオケに来れば良かった!!
ここで飯も食えばあんなことには…!!
と。
でも、後悔先に立たず。
半田のお腹は既に四人分のポテトで凭れ気味だった。
「じゃあ、俺からね」
マイクを持った一之瀬の言葉の後に流れてきたイントロは、半田には聞き慣れないもの。
画面を見ると、英語の歌詞。
「うわ!洋楽だ!!」
アメリカ人の一之瀬が洋楽歌うのなんて、当たり前と言えば当たり前なのに、
カラオケで洋楽を歌う知り合いなんて今まで居なかった半田は驚きで一気に元気になる。
一之瀬もそんな半田に歌いながらウィンクしてみせる。
「すごーい!一之瀬、かっこいー!!」
歌が終わり、半田の珍しい手放しの褒め言葉に一之瀬もデレっとした笑顔だ。
「ありがと、半田」
――こんなことで喜んじゃって、半田って可愛いな。
ここにきて漸くカップルらしい雰囲気に、一之瀬も目尻が下がる。
「ふっふっふー、次はボクだね!」
一之瀬の次にマイクを持ったのはマックス。
見るからに慣れていて、上手そうな雰囲気が漂う。
そして流れてきたイントロは、またもや半田の知らないもの。
マイクを垂直に構えたマックスの口から流れるリズミカルな英語の歌詞。
「うまっ!!上手すぎるだろ、これ!!」
口あんぐりレベルの上手さに、半田が驚愕の声を上げる。
マックスはふっふーんっていう褒められて当然って顔で受け流す。
・・・って、上手いけどまた英語?
洋楽二連ちゃんという慣れない状態に、半田は、「おおー!」と手を叩きながらも心の中で秘かに思っていた。
「うっ、マックスの後って逆に歌い辛いな…」
三番目にマイクを持った影野は困ったように呟く。
それでもしっかり歌うところをみると、実は初めてのカラオケを結構楽しんでいるのかもしれない。
流れてきたイントロは、半田も聞いた事のあるもの。
・・・でも、これって…。
始まった歌は、半田でも知ってる洋楽のスタンダードナンバー。
それを影野はしっとりと歌い上げる。
――なんで皆洋楽ばっかなんだよー!?
影野まで洋楽って、お前絶対マックスの歌の趣味に感化されてんだろー!?
彼氏の影響で洋楽聴くって、まんま乙女だろーがー!!
心の中でどんなにツッコミを入れたとしても、半田以外の三人が洋楽ばかりを歌うという流れは変えられない。
しかも三人は半田を余所に洋楽の話題で盛り上がっている。
――この流れでJPOPとか、めっちゃ歌い辛い…。
「半田ー、歌わないなら入れちゃうよ?」
既にマイクを持っているマックスの声に、慌てて半田も入力する。
やけくそ気味に半田が歌った歌は、ジャ○ーズだった…。
――こうなったら、流行の歌、全部一人で歌ってやる!!
へっへーんだ!いつもだったら絶対誰かと被るのに今日は全然大丈夫だもんねー。
三人で半田の歌の途中でもこそこそと話しに盛り上がっている様子を尻目に、半田は悲しい決意をしていた。
でも、半田は知らない。
三人が秘かにカラオケの間中こんな会話をしていた事を。
「うわっ、半田ってばジャニ○ズだけじゃなくアイドルもんは女の子のもイケルんだ!
何、何!?もしかして秘かにアイドル目指してるとか!?」
「うっ、俺達が見てないと思って、半田こっそり振り付きだ!
可愛すぎる!可愛すぎる!!」
「…半田凄いね、流行り物は大抵歌えるんだ。
俺、芸能界とか疎いから尊敬する」
一之瀬とのダブルデート…それは皆で半田を愛でる会でした。
一之瀬END
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