2
ファーストフード店でカップル同士隣り合って座る。
先程のやり取りのせいか、やけにギスギスした空気が痛い。
そんな空気さえ楽しんでるマックスや、むっとしている一之瀬を余所に、
半田と影野はもう解散でもいいかななんて思いながらハンバーガーに齧り付いている。
「半田、あーん」
そんな中、一之瀬がポテト片手に必殺の「あーん」攻撃を繰り出す。
隣からにこにことポテトを差し出された半田は顔が引きつるのが傍目にもはっきりと分かる。
「おいっ、こんな所で止めろって」
半田は低い声で、一之瀬の事を諌める。
昼時で満員の狭い店内で、男子中学生同士がこんな事をしているってことに半田は気が気じゃない。
きょろきょろと辺りを見渡すと、角に座ってる女子高生グループがさっきからこっちをちらちら見ている気がする。
「いーじゃん、そんな気にすることないって。
半田、あーん」
辺りを気にする半田にフォローの言葉を入れたのは一之瀬ではなく、マックスだった。
マックスはそう半田に言うと斜め前から一之瀬と同じようにポテトを半田に差し出す。
「おいっ!なんでお前まで俺にすんだよっ!?
やりたかったら影野にやればいいだろーが!!
」
「そうだよ!
半田は俺のポテト以外を口にすると死んじゃうんだよ!
だから今すぐ止めろ!」
マックスの行動に半田と一之瀬が怒り出す。
まあ、その怒りの方向性は大分違ったが。
でも、マックスはこんなことではへこたれない。
「えー?
でも仁ってポテトあんまり好きじゃないんだよね。
それなのに『あーん』なんてしたら仁のことだから無理してでも食べてくれるから、
可哀想すぎてボクには出来ないよ」
ね、仁?
そう言って影野に同意を求めると、影野も慌てたように頷く。
「うん、実はポテト苦手で。
油っぽいし、もそもそしてるからのど乾くし…」
影野の言葉に、マックスはうんうんとわざとらしく頷く。
そしてね?って顔でまた半田にポテトを差し出す。
「ね?じゃねぇー!」
半田は顔の前の二本のポテトについに怒鳴りだす。
「ちょっ、本当に無理なんだけど!」
それでなくても「あーん」なんて、こんな周囲の目のあるところで無理なのに、
マックスがやりだした事で、いつもだったら本気で嫌がれば止めてくれる一之瀬まで止める気配が無い。
――あー、もうっ!どうすりゃいいんだ!?
頭を抱えた半田の前に、もう一本ポテトが増える。
「…半田、あーん」
・・・影野だ。
「…なんでお前もやるんだよ?」
ツッコむ気力も無くなった半田は、脱力しておずおずと前からポテトを差し出す影野に訊ねる。
「えっと…、やらなきゃいけないのかなと思って。
なんか期待されてる気がするし…」
影野が向ける顔の先には、先程半田が気にした女子高生グループの姿がある。
半田も見ると、
「きゃー、あの子もやったよ!?」
「ちょっ、こっち見てるってー。
あんたら声でかすぎだっつーの!
…あの子が『あーん』しなくなったら、あんたらのせいだよ!?」
等々のこちらをガン見してたのバレバレな声が聞こえてくる。
――思いっきり見られてた…っ!!
半田は顔に熱が集まるのが抑えられない。
――こいつらのせいだっ!!
半泣きで顔を上げると、目の前のポテト三本を手で奪い取る。
「あー!『あーん』は口で取るのがマナーでしょ!?」
「そーだよ半田!
それで俺の指まであぐあぐするまでがお約束だよ!?」
抗議の声を上げる二人を無視して、ポテトを食べると、
そのままの勢いで残っている三人分のポテトを一気に口に頬張り始める。
「びゃかなほとひってなひで、さっさとひくぞ!!」
そしてポテトを口から飛ばしながら、意味不明な言葉を叫ぶのだった。
――半田の頑張り、俺、感動した…!
勿論、その叫びを影野は十分理解していたのだった…。
▼