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なんだか知らないけど、その日は一之瀬が俺にサッカーを教えてくれることになった。
その日なんの予定も入ってなかった俺は、一も二も無くその提案に飛びついた。
だって、常々どうやってやるんだろって不思議に思ってたプレイを一之瀬が直々に教えてくれるって言うんだもん、そりゃ嬉しくない訳が無い。
俺は大急ぎでラーメンを食べ始める。
でも、急ぎすぎたせいかまたも噎せてしまう。

うう、俺ってば格好悪い。

「ほら大丈夫?」
それなのに、二人は笑うこともせず俺に水を渡してくれる。

うう、優しい。

俺は普段マックスなんかと一緒に行動することが多いから、こんな風にストレートに優しくされるのに慣れてない。
なんかすっごく嬉しくなってしまう。

「ありがとっ」
俺が礼を言うと一之瀬はアメリカンに肩を竦めた。
ノー、プロブレムってジェスチャーに俺は思わず噴き出してしまう。

「そこで笑っちゃ駄目でしょーが」
土門のあきれた声さえ楽しい。

うん、俺、けっこー浮かれてるかも。


俺が食べ終わると二人とも席を立つ。
これって俺を待っててくれたってこと?
店を出る時も、なんか引き戸を開けてくれるし、
なんかさ…二人って俺なんかより大人?


「んじゃー、俺、先帰るわ。
半田、応援してるから頑張ってね?」
店を出た途端、土門がウィンクしながらそんなことを言い出す。

「えっ、土門は来ないのかよ!?」
俺はてっきり来るもんだと思ってたから、びっくりしてしまう。
でも驚いてるのは俺だけで、一之瀬は普通に手を振っている。

「ん?俺?行かないよ。
だから二人で頑張ってネ」
土門はそう言うと俺の返事も待たずに、じゃーねーってにこやかに行ってしまった。

「土門の奴、なんか用事でもあったのかな?」
遠ざかっていく土門の後ろ姿を眺めながら俺が呟くと、一之瀬がくすりと笑う。

「さあ?土門は結構自分の中だけで納得しちゃうタイプだから変に遠慮したんじゃない?
まだ、そういうのじゃ全然無いのに」

「へ?どういう意味?」
俺は一之瀬の言ってる意味がさっぱり分からなくて首を捻る。

「はは、半田は分かんなくていい話だよ」

「なんだよ、それ!?」

一之瀬のどこか含みのある笑い方が、俺の中に重たい物を積み上げていく。
そりゃ、付き合いの長い一之瀬と土門の二人には俺が簡単に分からないこととかあるのは当たり前って知ってる。
でもそんな風に言われたら、お前は部外者だって言われてるみたいで寂しい。
その笑いが、一之瀬と土門の間にある俺が入っちゃいけない境界線みたいで足が重くなる。


俺が重たい足のせいで中々動けないでいると、一之瀬がぽんと俺の背中を軽く叩いた。

「半田は俺と二人っきりじゃ嫌?
やっぱり土門がいた方がいい?」
俺を覗き込むその顔は、悪戯っぽい、からかう様な顔だった。

「だっ!」
俺はその顔のせいで一気に顔に熱が集まる。

「誰も土門がいなくて寂しいなんて言ってないだろ!?」
俺が真っ赤な顔でそう言うとくすくすと一之瀬が笑い出す。

「じゃー、俺と二人っきりで嬉しいんだ?」
笑いの合間にすっと笑ってない目が一瞬だけ顔を見せた気がして、
その一瞬が俺の言葉を一気に奪う。

「・・・」

「ん?」
でもそんな一瞬なんて無かった顔で一之瀬は俺の答えをにこにこした顔で待っている。
にこにこしてるのに有無を言わせぬ変な迫力がある。
やっぱり爽やかって嘘だ。
思ったとおり爽やかブリッコの腹黒さんだ。

「…そんなこと言ってないだろぉ」
なんか子供っぽく拗ねた言い方になっちゃったのが格好悪ぃ。

「そお?
俺は半田と二人っきりって珍しくって、結構楽しいんだけどな」
にこにこって顔を少しも変えずに一之瀬が言う。

うん、やっぱり俺より一之瀬の方が大人っぽいのかも。
こんな恥ずかしいことを平気で口に出来る分だけ、
なんか余裕で、それに大人って感じだ。
ちょっと、…照れくさい。


一之瀬はそんな俺を滅茶苦茶照れさせる台詞を吐いたくせに、
何にも無かったかのように「じゃ、早く行こう」なんて河川敷へ歩き出してしまう。

照れまくってる俺なんて置いてきぼりだ。
・・・なんだろう、すっごく遊ばれてる気がするのは。

俺はさっそーと歩いている一之瀬をダッシュで追い抜く。
追い抜く時に抜かりなく後頭部を叩いてやった。


「二人だろーが、三人だろーが、
俺は一之瀬に教えて貰えるってだけでめっちゃ嬉しいつーの!ばーか!」
大分先まで走ってから振り向いて叫ぶ。

あれ?大人っぽい一之瀬を逆に照れさせようって思ったのに、
なんで俺が口にすると、やっぱどっか子供っぽくなってしまうのはどうしてだろう?
ばーか!が悪かったのかな?

案の定一之瀬は照れたって顔じゃなく、驚きって顔してから大きい声で笑いだした。



 

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