26



きっと、俺が背を背けたから。
辛そうに背を背けたから。
影野は俺の気持ちに気付いてしまったんだ。

影野が俺の気持ちにどこまで気付いているかは分からないけど、絶対気付いた。
もしかしたら俺がマックスの事を好きだって気付いたかもしれない。
もしかしたら俺が友達がホモになるのを気持ち悪いって思ってるって誤解しているかもしれない。

でも確実に俺が二人が付き合うのが嫌だって思ってることに気付いてる。
そしてそう思っている俺の為に、マックスの告白を断ろうとしている。

だから俺は逃げることもできずに立ち竦んでしまう。
だって俺だって気付いてしまった。
影野もマックスのことが好きだって。


もう、もう何なんだよぉ。
こんな時にまで俺に遠慮するなんて、本当にお人好しすぎるだろ。
あんな風にマックスにしがみ付くぐらい好きな癖に、
あんな風にマックスが自分のこと想ってるって知って、泣くぐらいマックスのことが好きな癖して、
俺の為に、俺なんかの為にそれを断るなんて本当に考えられないぐらい馬鹿だ。

俺なんか影野が寂しい思いをしてるって知っていたくせに、二人きりの練習を止めようなんてしなかったのに。
さっきだって影野じゃなくて俺の為だったらなんて考えたりしてたのに。


「…マックス、俺」
俺は気付かないうちに、顔を歪めていたらしい。
そんな俺を見て、影野が覚悟を決めたように一歩下がってマックスの名前を呼ぶ。

「影野!!」
突然の俺の大声に二人が吃驚して振り向く。
マックスは影野の返事に身構えていたみたいで、俺の大声にびくって体が浮く程驚く。
俺はそんなマックスに思わず笑ってしまう。

だからその時の俺の笑顔は本物。
涙が一粒零れてしまったけど、それぐらいいいよな。


「マックスってさ本当に意地悪で、自信過剰で、何かあるとすーぐ俺達を巻き込むだろ?
だからさ俺からも頼むよ。
これからはお前が隣で止めてくれ。
な、俺の為だと思って、マックスと付き合ってくれよ」

影野の気持ちを、知ってしまったから。
影野が自分の気持ちよりも俺の気持ちを優先しようとしてくれたって、知ってしまったから。
俺はそれを無視できない。
だって、俺達は『友達』だから。

「…いいの?」
影野が俺に訊いてくる。
その声は涙声で、
俺は予想が当たったなって思わず笑ってしまう。

「いいに決まってんじゃん。
ってか頼んでるのはこっちだって」
俺は影野に向かって会心の笑顔を浮かべる。

「半田っ!!」
影野は俺の名前を呼ぶと、俺に駆け寄り抱きついてくる。
俺も影野の気持ちが分かるから、ちゃんと受け止める。
マックスが抱き合う俺たちを見て唖然としているのが、笑ってしまう。
絶対アイツには俺達の気持ちなんて分かんないんだろうな。

「影野は俺の方がいいってさ」
俺が勝ち誇った顔でマックスに言うと、マックスの顔が一気に青くなるから笑ってしまう。
ほーら、やっぱり分かってない。

俺がマックスを見て噴き出すと、影野も一緒になってくすくす笑う。
俺達がいつまでも笑っているから、マックスは混乱した表情を浮かべる。

「えっ、えっ、どういうこと!?」
いっつも俺たちを振り回すマックスが俺達に振り回されているのは珍しく、
その姿を見てまた俺達は笑ってしまう。

「こういうこと」
俺は影野をマックスの方へ押す。
急に肩を押された影野はまだ本調子じゃないこともあって、ふらふらとマックスの方へと傾く。
でも、マックスなら影野を転ばすようなへまはしない。
ちゃんと影野はマックスの腕の中に納まる。

「影野の一番の友達は俺だってさ。
お前はこれから友達じゃなくって違うのになるんだろ?」
俺がそう言うと、マックスは弾かれた様に影野を見上げる。
影野は、俺を一回ちらりと見てから、顔を赤くしてマックスに頷いた。
そんな影野をマックスはぎゅっと抱きしめる。

俺が想像していた未来予想図はやっと現実になった。
まさか自分がその手助けをするとは思わなかったけど。
でも、後悔はしていない。
そりゃ二人一緒のところを見ると胸が痛むし、
たぶん今日の夜辺り、後悔してまた泣いちゃうかもしれないけど、
でも今は、今だけは自分の選択が間違ってないって素直に思える。

この二人の友達とこれからも変わらない関係でいる為には俺の行動が必要だったって。



 END
  

prev next




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -