25



前に一度だけ繋いだことのある影野の手。
大きくて、
しっとりしてて、
すべすべしてて、
・・・俺のと全然違ってた。

あの手をこれからマックスは握るようになるんだな・・・。

そう思ったら、もう見ていられなかった。
俺は二人に背を向ける。

この場から走って逃げたい。


俺は初めて技のパートナーになったことを恨んでいた。
だってそうじゃなきゃ、この場にいなくて済んだ。
こんなところ見なくて済んだ。

それに、
…好きにならずに済んだ。


俺はまた涙が溢れてきて、空を見上げる。

影野の返事なんて聞かなくたって、あの手を見たら分かる。
大切に仕舞ってあったタオルを見たら分かる。


「イエス」に決まってる。


影野が少しはにかんだように頷いて、
マックスが改めてぎゅっと抱きしめる未来予想図が簡単に頭に思い浮かぶ。

あーぁ、本当に走って逃げようかな。
「お邪魔みたいだから先に帰るな」
って言えば別に変じゃないし。
両思いになった二人と一緒に病院まで帰るのは辛過ぎる。


俺がそうしようと後ろを振りむくと、
そこでは影野がマックスを押し返していた。

え、なんで!?

さっきは、あんなに強くマックスを離さないって感じで抱きついていたのになんで。
俺は意味が分からなくて、頭が混乱する。

え、え、もしかして答えは「ノー」なのか!?
そんな自分に都合のいい事さえ考えてしまう。

俺が唖然としていると、影野がずっと俺を見ているのに気付いた。
告白したマックスじゃなく俺を。

はっとした俺はその瞬間、隠れているのに影野と目が合ったのが分かった。
そして、その瞬間に全部が伝わる。


どうして、好きな相手であるマックスの気持ちは言われるまで分からなかったのに、
影野の気持ちはそれだけですぐ分かってしまうんだろう。

・・・分からない方が良かった。
気付かなければ、そのまま先に帰ってしまえたのに。
もう俺は気付いてしまった。


――影野が俺の為に断ろうとしていることに。


 

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