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*土門視点です



「…だって、しょうがないだろ。
目に入るとつい見ちゃうんだもん。一之瀬のこと」
そう言って真っ赤な顔で上目遣いで一之瀬を見つめる半田は、どう見たって告白にしか見えない。

あら〜…、これは自覚してないみたいだけどマジっぽいなぁ。

俺はちらりと一之瀬を見る。

あー、やっぱり。
生粋の女好きである一之瀬は案の定困惑の表情を浮かべてる。
これはあれだな、不必要に藪を突いたら本当に蛇が出てきちゃったって感じだな。

俺達の反応をどう思ったか知らないけど、半田は大慌てで両手を振り始めた。


「流石に試合中はぼうっとはしないぞ!
ただ、練習中だけはつい…。
だってさ、一之瀬のプレイってすっげーかっちょいいんだもん。
攻守の切り替えとか、フェイントとかこうリズムがあって、
一瞬でも目を離すと全然違う動きしてるから目が離せないっていうかさ。
凄いよなぁ、どうやったらあんな動き出来るんだろ?
さっすが『フィールドの魔術師』って渾名されるだけあるよな。
本当に魔術みたいなんだもん、余所見なんて出来ないよ!」

最初はただ取り繕うような感じだったのに、話していく内にプレイを思い出したのか、半田はどんどん顔を輝かせだした。
顔を興奮で上気させて目をきらっきらさせてるのなんか、
はっきり言って男のくせに結構可愛い。
あどけなくって健気な感じで、頭ぐりぐりしたくなるような可愛さだ。
傍で見てる俺でさえ、そう思ったんだから、真正面から見られてる一之瀬なんか余計だろ。

あ、やっぱり。一之瀬照れてる。
照れてるのって一之瀬はあんまり顔に出ないんだけど、
流石に付き合いの長い俺にはばっちり分かる。

「えっと…、サンキュー半田。
俺って、そんなに凄い?」
一拍開いたのが照れてる証拠なんだけど、ぱっと見は普段の顔と全然違わない顔で一之瀬が訊ねる。

「うん!当たり前じゃん!
俺は大好きなんだぞ!?」

あちゃ〜、無自覚って怖い。
そんな飛び切りの笑顔で大好きなんて軽々しく言ってちゃ、男は簡単に誤解するぞ。
例え男でも、半田なんて可愛い顔してんだから変な奴にでも襲われたらどうすんだ。

それにしても…。

俺はもう一度一之瀬をちらりと見る。

一之瀬はゆっくりと何回か瞬きをしている。
その顔には特にこれといった感情は浮かんではいないけれど、
でも絶対半田のこと気に入ったはず。
だってそれこそ、半田は男ってことを抜かせば一之瀬の好みにどんぴしゃだ。


一之瀬の好みは、まあ分かりやすく言えば秋みたいな子だ。
可愛くって、明るくて、サッカーが好きで健気な子。
一之瀬は目立ちたがりだから、自分のサッカーを褒めてくれて応援なんかしてくれたら、もう完璧。
まあ秋と違って半田には家庭的って属性は無いけど、
それ以上に無防備で危なっかしくってどことなく守ってやらなきゃって気分にさせる何かがある。
そこら辺の女の子より半田の方が男の庇護欲をそそるって変な話だけどな。


俺は丼に少しだけ残っていたスープをわざと音を立てて飲む。
その音ではっとしたように一之瀬が俺のことを見る。

うん、俺、気付いてるよ。
お前が半田のこと気に入ったの。
それにもう昼飯も終わるし、これからどうするか早くお前が決めなきゃ。
…だって俺は部外者でしょ?

俺がトンとテーブルに丼を置くと、一之瀬が少し笑って半田に言う。


「じゃあさ、これから一緒に練習する?
もし良かったら俺が色々教えてあげるよ」


あーあ、今日の午後は暇になりそうだな。
まあ、これからずっと暇になるかは半田次第だけど。
一之瀬の女好きは結構有名だから、そう簡単にはいかないだろうけど、
リカなんかよりは可能性ありそうだ。

だってもう一之瀬から誘われるくらいには心を動かしたんだから。



 

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