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学校はやっぱり瓦礫の山で、部室なんて古いから跡形もなくやられていた。

「うわ〜、見事なまでにやられたね」
マックスが棒切れになった柱らしきものをつまみながら言う。

俺はその粉々になった部室を前にして、強いショックを受けていた。
マックスが一緒にいるから泣かなかったけど、一人だったら泣いてしまっていたかも知れない。
それぐらいショックだった。

練習する場所が無かったからこの部室で過ごす時間が一番長かった。
それこそ一年の時からだから、今の自分の教室よりも馴染みが深い場所だった。

それが今では粉々で、小屋としての形さえ保ってなくて。
サッカー部っていう表札さえ持っていかれて。
そこはもう部室でさえなかった。

それがまるで今の俺みたいで。
怪我した置いていかれた俺と、
粉々で部室としての役割をキャラバンバスに取られたここは同じに見えた。

俺が壊れた部室の前で立ちすくむことしかできないでいると、
マックスはごそごそと片手なのに器用に瓦礫の山を漁っている。
大きな瓦礫を足でどかして、ぼろぼろのロッカーをがんがんと乱暴に開けだす。

「誰のか分かんないけど、大丈夫そうなのは病室に持ってこ」
そう言って次から次へと開けられる状態のロッカーに手を出す。

破れたスパイク、汚れた置きっぱなしの辞書、袋の空いたお菓子の数々、びりびりの雑誌類、折れた置き傘。
次から次に、破壊された日常の数々がマックスの手で、引きずり出されていく。

俺が悲痛な気持ちでそれをただ見ていると、急にマックスが動きを止める。
俺は不審に思って、そこで初めてマックスの傍に近付く。

マックスの手にあるもの、それは箱はびりびりで泥だらけだったけど、
確かにあの日マックスがゲーセンで取ってくれたタオルだった。
俺の自宅で母親のバスタオルになってるのと色違いのそれは、影野がマックスから貰った物だった。

「影野はそのタオル、ロッカーに入れてたんだな」
俺が呟くと、途端にマックスは顔を歪ませる。

「ボクが部活で使ってよって言ったんだ。
だから仁は部活に持ってきてボクに見せてくれたのに。
それなのに仁はボクに内緒でまた箱に仕舞って取っておいたんだ」
俺から顔を背けてそう言うと、タオルを持ったまま瓦礫の山から出ていく。


「半田、ボクは悔しいよ」
俺から背を背けたまま、そう呟く。
どんな顔してるかなんて見えないから分からないけど、
握った拳が真っ白になっているからどんな
気持ちかは分かる。

・・・たぶん俺と同じ気持ち。

「ボクは正直なんでも器用にこなせるからいい気になってた。
一年から真面目にサッカーに取り組んでいれば、こんな思いしなくてすんだのかな」

「俺も、サボってないで真面目にやってれば、置いてかれないですんだのかな」

お互いに言っているようで、ただの独り言に過ぎないそれを呟く。
お互いが目を逸らして、自分の中の思いに沈みこむ。
暫くしてマックスが口を開く。

「半田、ボクは決めた」
そう言うマックスは迷いの無いまっすぐな目をして俺を見ていた。

「ぐだぐだ悩むのはボクの性に合わない。
ただボクが…守れるぐらい強くなればいいんだ。
大切なものを守れるぐらい強く」
マックスからはもう迷いも弱さも微塵も感じられなかった。

「ボクは強くなる!
こんな思いを二度としないぐらい強く!

・・・半田はどうする?
まだそのままでいる?
まあ、半田がそのままでも次はボクがついでに守ってあげるけどね」
にっと挑戦的に笑ってそう言う。
そこまで言われたら、俺だってこのままではいられない。
俺もマックスをまっすぐ見て、にって笑う。

「はあ!?冗談だろ。
俺だって強くなってやる!
それこそ俺がお前を守るぐらい強くな」
そう言葉にすると、全身から力が湧いてくる。

俺はバスには乗れなかったけど、歩きでも、例え這ってでも前には進める。
ゆっくりでも今俺ができるスピードで前に進むことを俺は決めていた。

「んー、じゃあ一緒に頑張っちゃう?」

「おう、負けないからな」
俺達はにっと笑い合って、一度だけ手を合わせた。


瓦礫の山からトレーニンググッズを探し当て、意気揚々と病院に戻る。
行きは置いてかれたことで塞ぎこんでいたのに、戻る時はこんなにも明るい気分だ。
・・・それはたぶん隣にいるこいつのお陰だ。
俺はちょっとだけ、マックスと二人で来れたことに感謝していた。


病室に戻った時、俺達は色々抱えていたから影野は気付かなかった。
明るい気分で頭がいっぱいだったから俺も気付かなかった。
マックスが影野のタオルを本人に返さなかったことに。
マックスは俺達に気付かれないように、そっと影野のタオルを自分の荷物の中に隠した。
マックスが想いを告げるその日まで、そのタオルは俺達から隠し続けられた。


 

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